2<空の涙>
空が、泣いている
静かに、誰かが呟きました。
窓の外を眺めながら、少女はぼんやりとしていました。
ただぼんやりと、空を見上げていました。
バタン、と大きな音を立ててドアが閉まりました。
その音に気付いて、少女は玄関に駆けて行きます。
そこにはもう誰の姿もなく、少女はそこにゆっくりと座り込みました。
ぎゅっと膝を抱えて、小さく、まるで何かに怯えているように。
ゆっくりとドアが開いて、老人が顔を覗かせました。
「−こんにちは、お嬢ちゃん。元気かい?」
いつもと同じように言って、笑います。
それに対して、少女は小さく笑いました。
「どうしたんだい?今日は元気がないねぇ。」
老人の言葉に、少女は何も答えませんでした。
ふと、老人が少女に手を伸ばしました。
ゆっくりと、少女の腕に触れます。
「−…また、お母さんに叩かれたのかい?」
老人の皴だらけの指が、少女の白い肌の上の痣を撫でます。
その問いに、少女は黙っていました。
老人は、黙ったまま優しく傷を撫でていました。
「−……やさ、しい。」
小さな呟きに、老人が少女を見ます。
「…おじいさんの手、優しい。あったかい。」
その呟きに、老人は小さく微笑みました。
「−さて、昨日はどこまでだったかねぇ?」
いつもと同じように老人が呟くと、少女はとても嬉しそうな笑顔を見せました。
低く、キレイな声が、辺りに響いていました。
時折、弦が高く鳴ります。
青年は、唄を紡ぎます。
どこか、遠い異国の唄を。
不意に、目の前に影が落ちました。
不思議に思った青年は、顔を上げました。
そこには、ゆるいウェーブのかかった長い髪の女の人がいました。
「−…こんにちは。」
ニッコリと、青年が笑いかけました。
「−あなた、吟遊詩人さん?」
赤い唇で、女の人が笑います。
「今の唄、あたしもよく歌うの。向こうの店でね、いつも。」
「歌姫さん、なのですか?」 「一応ね。今度、遊びに来てちょうだい。」
じゃあね、と笑って、女の人が手を振りました。
その後ろ姿を見送って、青年が空を見上げました。
灰色の雲の隙間から、青空が少しだけ覗いていました。
「−…お嬢ちゃん、昨日の吟遊詩人を、覚えているかい?」
歌い終わった少女に、老人は問いかけました。
それに対して、少女は頷きました。
「あの人に教えてもらったら、もっといいかもしれんのう。」
老人の言葉に、少女は首を傾げました。
「わしは、あまり上手じゃないからね。」
小さく笑って、老人が言いました。
それに、少女が首を横に振りました。
「−おじいさんが、いいよ。」
言って、ニッコリと少女が笑います。
それを見て、おじいさんが少女の頭を優しく撫でました。
少女が、嬉しそうに笑います。
突然、少女の顔から笑顔が消えました。
老人は、それを不思議そうに見つめます。
「−…帰って、きた…。」
小さく、消えそうな声で少女が呟きました。
「−おじいさん、早く帰って。早く。」
小さく叫ぶように、少女が言いました。
その言葉に、老人が急いで立ち上がります。
小さく後ろを振り返りながら、老人が玄関のドアに手をかけました。
少女は、座ったままその後ろ姿を見送りました。
ドアが閉まる音を、少女は膝を抱えながら聞いていました。
隣の部屋のドアが閉まった音がして。
そのすぐ後に、ドアが大きな音を立てて開きました。
少女の肩が、ビクッと震えました。
大きな足音を立てて、女の人が部屋へと入ってきました。
少女は、ぎゅっと服を強く掴みました。
つかつかと少女に歩み寄り、女の人が少女の髪を掴みました。
「−隣のオヤジと話すなって言ってるでしょ!」
叫びながら、女の人が少女を叩きました。
「何回言えばわかんのよ、アンタは!!」
叫びながら、次々と少女を殴りつけます。
少女は小さくごめんなさいと何時も呟きました。
けれど、叫ぶような声に掻き消されてしまいました。
少女は、決して抵抗しませんでした。
もっと酷く殴られることを、知っていたからです。
少女は決して泣きませんでした。
泣くと、怒られるからです。
もっと、殴られるからです。
ただ、嵐が通り過ぎるのを待っていました。
壁に叩きつけられて、少女は軽く咳込みました。
それを黙って見ていた女性は、つかつかと立ち去りました。
歩く度に、ウェーブのかかった髪が揺れました。
窓の端から、少女は空を見上げました。
灰色の雲が、空を覆い隠しています。
それは、今にも泣き出しそうな、空でした。
「−…泣いて、いる…。」
灰色の空を見つめて、青年が呟きました。
その瞳は、どこか哀しそうでした。
2005/2/17
鳥籠2話目〜。
ごめんなさい、こーゆう話です。虐待とか苦手な方、すみませんです…(汗
でも露骨なのココだけです、正直。たぶん(あれ
女の人はお母さんでした。いつも店で歌ってるそうです。
んで、その少女はその唄を隣のおじいさんから教えてもらってます。
おじいさんがどうして知ってるかはつっこまずにおいてください(笑)
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