鳥 籠 の 唄

 

1<ハジマリ>
 
 
 
小さな小さな、汚れた鳥
 
小さな籠に閉じ込められて
うす汚れた空しか、知らない
 
 
 
 
 
ガチャガチャと金属音がして、少女は音のする方へ駆けて行きました。
 
柱に身体を半分隠すようにして、少女は玄関を覗き込みます。
ウェーブのかかった長い髪をかき上げて、女の人がドアの向こうへと消えました。
 
 
 
「−……行ってらっしゃい…。」
 
 
聞こえるはずもない小さな声で、少女は呟きました。
聞こえないように、小さく小さく。
 
 
そのまま、少女はそこに座りました。
すぐに、その扉が開くことを知っていたからです。
 
 
 
 
「−こんにちは、お嬢ちゃん。」
 
 
ドアが開いて、初老の男がニッコリと笑いながら顔を覗かせました。
それに対して、少女もニッコリと笑います。
 
 
 
「元気かい?」
 
老人の問いに、少女は大きく頷きます。
それを見て、老人は少女の頭を優しく撫でました。
 
 
 
 
「−さて、昨日はどこまでいったかねぇ。」
「青い水たまり、までだよ。」
「おお、そうか。じゃあ今日はその次からだね。」
言って、老人がゆっくりと歌い始めました。
 
 
 
どこか、遠い国の歌です。
 
しわがれていて、あまり上手とは言えない、けれど優しい歌声。
少女は、黙ってそれを聞いていました。
 
 
 
やがて歌は途切れ、老人がニッコリと笑いました。
 
 
 
 
「−さあ、歌ってごらん?」
 
老人の言葉に、少女は大きく頷き、大きく息を吸い込みました。
 
 
細く、可愛らしい声が、ゆっくりと歌を紡ぎます。
聞いたばかりの歌を、まるでいつも歌っているかのように、滑らかに。
 
 
 
 
「本当に、飲み込みが早いねぇ、お嬢ちゃんは。」
 
老人の言葉に、少女は嬉しそうに笑います。
そして、今まで教えてもらった歌を、初めから歌い始めました。
 
 
小さな少女の歌を、老人は優しく微笑みながら聞いていました。
 
 
 
 
不意に、少女の声に誰かの声が重なりました。
低く、けれどキレイな声です。
 
 
 
不思議に思った少女は、歌うことをやめ、窓の外を見ました。
そこには、銀色の髪をした青年が立っていました。
 
異国の服を着て、手には何か糸を張ったような楽器を持っています。
 
 
 
吟遊詩人
 
 
一目で、少女にもそれは理解できました。
 
 
 
 
「−すみません、知っている歌が聞こえてきたので、つい。」
 
 
微笑む青年に、老人が応えました。
 
 
 
「お若いの、吟遊詩人かい?」
「ええ、街から街へと、旅をしています。」
言って、青年は微笑みました。
 
 
 
 
「−こんにちは、お嬢さん。歌っていたのは、君かい?」
「……。」
青年の問いに、少女は何も答えませんでした。
 
代わりに、老人が口を開きました。
 
 
 
 
「上手じゃろう。この子は、1回歌ってあげただけで、あそこまで歌えるんじゃよ。」
「そうですか、それはすごいですね。」
本当に感心したように、青年が言いました。
 
 
 
 
「−では、私はこれで。機会がありましたら、また。」
 
 
さようなら、小さな歌姫さん
 
ニッコリと少女に微笑みかけて、青年は去って行きました。
少女は、その背中が雑踏へ消えていくのを、黙って見ていました。
 
 
 
少女の頭の中では、声の重なったフレーズが巡っていました。
 
優しい笑顔と、優しい言葉、優しい声が、少女の頭から離れませんでした。
 
 
 
 
それが
籠の中と外の、初めの出逢い

 
 

 →2


2004/12/30
 
とても久々に表作品。って、今小説のリンク繋がってないけど(笑)
1話で終わらせる気だったんだけどな。なんでか続いちゃってるよ(あれ
まぁほら、予定は未定なのよ(ハイハイ 
続きもそのうちできたらいいなぁと淡く希望持っておきます(笑)
 
少女は10歳くらい。青年は20代。老人はー…まぁ気にしない方向で(笑)