キズグスリ
後編
「−…ロクなのねーからコレでいいか?」
部屋に戻って桜の着れそうな服を探す。
桜の来ている服は酷く汚れていて、ボロボロだった。
「ホラ、さっさと着がえろ。」
とりあえず見つけたTシャツを桜に手渡す。
しかし桜は一向に動こうとしない。
「…おまえ、暑くねーの?」
もう夏が過ぎたとはいえ、まだ長袖を着るほどではない。
「…。」
何を言っても動こうとしない桜を見かねて、服に手をかける。
桜は特に抵抗するでもなく、簡単に服を脱いだ。
「−…っ。」
桜の体には、沢山のキズがあった。
切りキズに、タバコの痕や痣。
真新しいモノから、ずいぶん古いモノまで。
ちょうど服に隠されていた、おびただしい数の傷跡。
虐待、か。
無表情な姿を見下ろして、小さくため息をつく。
「…痛いか?」
真新しいキズに軽く触れながら言う。
桜は少し考えた後、頷いた。
それを見て、クスリを取り出してつける。
キズにしみたのか、桜が少し、よく見ていないとわからないくらい微かに顔をしかめる。
「−あ、悪ィ。大丈夫か?」
その言葉に、コクンと頷く。
「−…り……ん…?」
それはとても小さく、消え入るような声だった。
「…どうした?」
呼んだと言うのに、桜は何も言わない。
「……り…ん…。」
桜は、ただ名前を呼ぶだけだった。
一つ一つ確かめるように。
まるで初めて言葉を憶えた子どものように。
「何だよ、桜。」
「……な…ま、え……。」
酷く久しぶりに喋るのか、桜はたどたどしくそう呟いた。
「名前?桜?」
コクンと頷く。
「…別に名前なんていくらでも呼んでやるよ。」
軽く微笑んでそう言う。
それに対して、桜は小さく頷いた。
「−よし、終わり。」
クスリをしまって、Tシャツを頭から被せる。
もぞもぞと動いて、桜が顔を出した。
「やっぱデカイな。あとでおまえの買いに行くか。」
そう言いながら、自分も着替える。
「−……り、ん…。」
「んー?」
小さな呟きに、振り返る。
「……いた、い…?」
「…あぁ、コレか?」
一瞬何のコトを言っているのかわからなかったけれど、すぐにわかった。
背中にある、大きな傷跡。
「もう痛くねーよ。昔のだしな。」
それはもう、5年も前のコト。
両親が一家心中を図り、当時13だった俺だけ生き残った。
その時何があったかなんて、興味はなかった。
ただ一つわかったコトは、俺だけおいていかれた、というコトだった。
それから、身寄りをなくした俺を引き取ってくれたのが、綺羅さん。
Crimson他、多数の組織を束ねる大物。
そして、紋に誘われて今の組織にいる。
ヒトを、殺して生きている。 不意に、背中に冷たいモノが触れた。
首だけ振り返ってみると、それは桜の指だった。
さっき俺がしたコトと同じコトをしようとしているのか。
もう痛みも感じない傷跡を優しく撫でていた。
「−…もう痛くないって言ったろ?…でも、ありがとな。」
桜の頭をポン、とたたいて服を着る。
「−桜。おまえ、タバコ平気か?」
頷く桜を見て、火を点ける。
「……い、い…に…お、い…。」
「そっか?」
部屋に広がる、バニラの甘い香り。
そのとき、不意に桜がよろけた。
「−っ桜?」
倒れるトコロを受け止める。
「…寝てるし。」
しょうがないので、抱えてベッドまで運ぶ。
薄手の毛布をかけて立ち上がろうとしたら、何かに引っ張られた。
振り返ってみると、シャツの裾を桜がつかんでいた。
「…しょーがねぇなぁ…。」
ため息混じりにそう言って、桜の隣に腰かける。
「ったく、カワイイ顔して寝やがって。」
軽く頭を小突いて、ゆっくりと煙を吐き出す。
「−…守ってやるよ。」
小さく、誰にともなく呟いた。
後編お疲れさまでしたー。 2人の出会いはこんな感じ。言うなれば、被害者と加害者です(笑) 今回は名前がたくさんでてきましたが、初期はあんな感じのメンバーです。 綺羅さんについては遠ーい未来に語るかと(笑) |