キズグスリ
前編
何もいらなかった
大事なモノなんて、何1つなかったから
いつだって
この手の中から消えてしまうから
音の した方向に反射的に、あたりまえのコトのように銃口を向ける。
そこに立っていたのは、長い黒髪をした男が1人。
それとは対照的な程に白い肌が、とてもよく映えた。
そいつは、ただ床に転がるヒトだったモノを見ていた。
自分に向けられている銃口を、気にも止めていないように。
不意にそいつが顔を上げた。
正直、その瞳を怖いと思った。
何の感情もない、人形のような瞳。
髪と同じ、漆黒の闇。
「−…おまえ…そいつの、弟か?」
向こうの足下に転がるモノを指差して言う。
赤い血に濡れた、1人の男。
人間、だったモノ。
小さく頷いたのを見て、俺は銃を下ろした。
そいつは、ただ足下に転がるモノを見下ろしていた。
俺は、黙ってそれを見ていた。
不意に、真っ黒な瞳と目が合った。
変わらない、感情のない瞳。
「−…一緒に、来るか?」
自然と、口が開いた。
顔がよく見える距離まで近づく。
「…。」
少し間があってから、そいつは頷いた。
「−…凛。」
「…。」
意味がわからない、というようにそいつが首をかしげる。
「…俺の名前。リ・ン。言ってみ?」
「……り…ん…?」
一つ一つ確かめるようにして言う。
「そ。おまえは?」
「……さ…く、ら…。」
「…女みてーだな。字は、こうか?」
ガラスをくもらせて『桜』と書く。
それを見て、少し考えてから小さく頷く。
「…じゃあ行くか、桜。」
そう言って手を差し出す。
「…。」
少し戸惑っていたけれど、桜は俺と同じように手を出した。
俺はその手を取って歩き出す。
紋にどう説明するか考えながら。
「−…凛、僕は仕事頼んだはずだよね?」
案の定、紋は頭を抱える。
「だから、仕事はしてきたって言ってんだろ。」
面倒臭そうに、吐き捨てる。
「…それで、なんで連れてきちゃうわけ?」
「…成り行き。」
ここにくるまでの間、ずっと袖をつかんでいた桜を見ながら言う。
その目は、不安も期待もない、真っ暗な瞳だった。
「−…いーじゃん紋。入れてあげなよ?」
「そうですよ、紋さん。」
「…零も昂も、そんなに簡単に言わないでくれるー?」
声に振り返ると、2人の人間が笑っていた。
いつもと同じような笑顔の昂と、楽しそうに笑う零。
それと、もう1人。
「…俺とか凪は入れたのに、そいつは入れないってのも変だろ。」
先月、零が連れてきた玄。
いつもと変わらない、無表情で言う。
「そうなんだけどさぁ…。」
そう言われると反論できないのか、紋が困ったような顔をする。
その表情のまま、紋は桜を見る。
無感情な瞳からは、何も読み取れないのだろう。
「−…わかった、いいよ。」
観念したかのように、紋がため息混じりにそう言った。
「えーっと…桜。君はbVで、今から組織の一員。」
Crimsonに、ようこそ
言って、紋が笑う。
その言葉を理解しているのかいないのか、桜の表情は全く変わらない。
「部屋はー…あとで用意しとくから、とりあえず凛と一緒でいいかな?」
「ん、サンキュ紋。」
ポン、と桜の頭に手を置いて答える。
3人にも軽く礼を言って、桜を連れて部屋へと戻った。
「−…凛には、心許してる感じだね。」
静かに呟いて、紋がクスクスと笑う。
「それに、凛のほうもねー。珍しいわ、あの子があーゆう顔するの。」
「…おまえ、やけに楽しそうだな。」
クスクスと笑う零に、玄が呆れたように呟く。
「楽しそうだねー、零。あ、昂。凪は?」
「まだ寝ていたので、起こさないできました。」
紋の問いに、昂が笑いながら答える。
「そっか。戻ってあげなくていいの?」
寂しがってるんじゃない?
言って、紋がクスクスと笑う。
「…では、すみませんが帰りますね。」
少し困ったように笑って、昂も部屋へと戻っていった。
残された紋と零は楽しそうな、嬉しそうな笑顔を浮かべていて。
玄はぼんやりと外を眺めていた。
オチが思いつかなかったとかいう話(笑)
そんなこんなで後編に続く(おい |