ア カ イ ハ ナ
後編
忘れてしまえばきっと楽になれるけど。
だけど それはきっと、幸せではないんだと思う。
「−ただいま。」
「お帰りー…って1人か?てかどーしたそれ…。」
血だらけの姿を見て尚が驚いたような顔をする。
「あ〜…バグとかいうヤツに会ってさ…ってか尾けられてたんだけど。」
「あぁ、慧のいたトコか。…で、やっちゃったわけか…。」
「うん…あ、これアリガト。」
借りてたナイフをナイフに返す。
拭い切れなかった血が、赤く光って見えた。
「クスリだけで余裕だったんだけどさ…壊しちゃったゴメン。」
ナイフの切っ先には篠特製の毒が塗ってある。
致死量がとても高く、掠っただけでヒトを殺せる。
「ま、やっちまったもんはしょうがねぇな。…それより朱。篠のヤツ、大丈夫だったか?」
「え、何が?」
「…アイツ、血ダメなんだよ。」
静かな尚の言葉に、驚く。
「…コレ見て大丈夫なはずねーんだけどなぁ。」
服とか髪とかについた血を見て、尚が呟く。
「−俺、篠探してくる!!」
「落ち着け、朱。そのカッコで出てく気か?」
「あ、そっか…。」
改めて、自分の姿を見下ろす。
白いシャツに赤い模様ができていて。
きっと、顔にもかかっているのだろう。
「篠は俺が探してくっから、顔洗って着がえた方いいな。その辺の適当に着ていいからさ。」
「…うん。」
小さく答えながら、尚からタオルを受け取る。
冷たい水に少し躊躇いながら、顔を洗う。
鏡を見て、髪にもついてるコトを思い出してタオルを濡らす。
篠は平気な顔して、笑顔で俺を見ていた。
俺は、何も気づかなかった。
尚から着替えをもらって、血だらけのシャツを着替える。
少し大きなその袖を、落ちないようにまくる。
「−じゃあ俺ちょっと行ってくるわ。留守番頼むな?」
「うん…。」
まだとれない血を拭いながら、言う。
尚がドアを開けようとした時、尚が開けるよりも早くドアが開いた。
「−よぉ…コイツ何したんだよ。」
聞こえてきたのは、よく響く、低い声。
「−玄。おまえ、篠連れてきてくれたの?」
「あぁ。なんかヤバそうだったし。」
その声に、軽く外を覗き込む。
そこに立っていたのは、玄だった。
そして、その肩には、篠が掴まっていた。
「−篠!」
その姿を見て俺は走り寄る。
「あ、朱…。」
そう言って、篠が力なく笑う。
「篠、ゴメン、俺…。」
「朱のせいじゃ、ないよ。」
そう言って、篠はポン、って優しく頭を叩く。
いつもみたいに、優しい笑顔で。
「あー…ごめん、尚。お酒、買ってこれなかった。」
「バーカ。んなもん別にいーよ。それより顔色悪いし、寝とけよ。」
言いながら、尚が軽く笑う。
「別に、大丈夫。」
それに反論するかのように、篠が口を開く。
「 「 いいから休んでろ 」 」
「…はーい。」
2人に言われて、素直に頷く篠。
そして尚がベッドまで連れて行った。
「…おまえも、とりあえず座れば。」
「あ、うん…。」
玄にそう言われて、その場に座り込む。
すぐ近くには玄が座っていて。
隠れていない左側の顔が見える。
その瞳はまっすぐに何かを見ているようで。
だけど、ただぼーっとしているような感じもした。
それをなんとなく見ているうちに、尚が戻ってきた。
「−寝たか?」
「うん、なんとか具合も大丈夫そうだし。」
尚の言葉に、そうか、と玄が答える。
あまり表情には出さないけど、ほっとしたような感じだった。
「−…あの、さ…篠、なんで血ダメなの…?」
ゆっくりと、静かに呟く。
その問いに、2人は顔を見合わせる。
「…俺は話してもいいと思うけど…尚、おまえは?」
「俺も朱ならいいと思うけど?」
答えながら、尚が軽く笑う。
「じゃあ…何から話しゃいーかな。アイツ、肉食えないの知ってるか?」
玄の問いに、軽く頷く。
「それとも関係してんだけどな…アイツ、5年前に妹殺されてんだ。」
「当時10歳だった…藍華ちゃんっていうらしいんだけど、篠の目の前で攫われたんだって。」
「誘拐…?」
俺の言葉に、2人が黙って頷く。
「で、数日後に家に小さな段ボールが届いたらしい。」
「…その中に…バラバラにされた妹さんが、詰められてた、って。」
静かに紡がれる言葉に、その意味を考える。
小さな、段ボール…?
それに、何、が…?
「ホント、子どもも入らないような小さい段ボールだった、って言ってた。」
「それ以来、肉食べるのに抵抗あんだってよ。血がダメなのは、その時のコト思い出すから。」
2人の言葉に、俺は何も言えなかった。
何を言えばいいのか、わからなかった。
「…アイツ、いっつも赤いリボンで髪結ってんだろ?アレ、妹の形見なんだってよ。」
静かに、玄が呟く。
「…俺って、信用ないかな…。」
どうして篠は何も言ってくれなかったんだろう。
どうして、変わらずに笑っていたんだろう。
「−それはねーよ。」
玄の言葉に顔を上げる。
「そうそう。篠って、朱のコトすげー気に入ってんだぜ?」
笑いながら、尚が言う。
「…ただ、前に少し言ってたけど…朱って、ちょっと妹さんに似てるんだってよ。」
「アイツは、また自分の前から消えちまうんじゃねーか、って恐がってんだ。」
「…そっか…。」
答えながら、軽く俯く。
「−さ、こーんな暗い話はもうやめよーぜ!」
パン、って手をたたいて尚が立ち上がる。
「俺、コンビニ行くけど、何かいる?」
「俺にもビール。おまえは?」
「え、あ、えっと…別にいい、や…。」
唐突に話題を振られて、少し焦る。
「そっか。じゃあ行ってくんな。」
「気ィつけろよー。」
軽く手を振って、サイフ片手に尚が出て行った。
残された2人の間に、沈黙が流れる。
「−…篠、俺見ててイヤじゃなかったかな…。」
静かに、自問するかのように呟く。
「−大丈夫だよ。」
「わっ」
俺の言葉に、玄は少し乱暴に頭を撫でる。
「…おまえの髪、いい色だって、アイツいっつも言ってんだぜ?」
言いながら、玄がくしゃ、と髪を撫でる。
「それに、5年も経ってんだからアイツも少しは強くなってんだろ。」
「そう、なの?」
「小さい切り傷とか、テレビで見んのとかは平気らしいぜ。」
部屋の片隅にあるテレビを軽く指差しながら、玄が言う。
「ただ、やっぱ直接は無理なんだろうな。おまえも似たようなもんだろ?」
「え、俺?」
「タバコがダメ、って言っても、火ィ点いてないそのままなら大丈夫なんだろ?」
そう言いながら、玄はポケットからタバコを取り出して俺の目の前に置く。
「あ、うん。何て言うか…煙、がダメなのかな…?」
「コレは?」
今度は床にあった銃を置く。
「えっと…撃ってるトコって言うか…音、かな?」
「…おまえ、自分のコトだろ。」
「あ、うん、そうなんだけどさ。」
答えながら、少し困ったように笑う。
改めて聞かれると、よくわからない。
ただ漠然と、恐い。
「まぁいいけど。とりあえずおまえは気にしすぎなんだよ。」
ため息と一緒に、玄が呟く。
「−みんな…おまえもそんな弱くねーんだからよ。」
わかったか?って感じで玄が言う。
「−うん。アリガト、玄。」
そう言うと、玄は小さく微笑んだ。
それは、とても珍しいコトだった。
「−あ、ゴメン。タバコ吸いたかったら吸って?俺帰るし。」
「あー、いいって。アイツ…尚、タバコ嫌いなんだ。」
「え、そーなの?初耳。」
「煙いからだと。だから俺ここ来ると吸わねーの。」
「へ〜。」
なんだか面白くて、言いながら小さく笑った。
「−タダイマ〜。」
その時、ドアが開いて尚が帰ってきた。
「遅かったな。」
「そっか〜?けっこう普通だって。あ、ハイ、ビールとつまみ。」
言いながら、尚が玄に袋を手渡す。
「ハイ、コレは朱に。」
「え、あ、アリガト…。」
もらったのは、スナック菓子何袋かと500mlペット。
「篠はー?起きてこれそーだったら一緒に食わねー?」
尚が奥に向かってそう呼ぶと、低く返事が聞こえてた。
少ししてから、篠がやってきた。
髪を結う赤いリボンを取っていて、茶色い髪が肩にかかっていた。
「あ〜…尚、お帰りー。」
そう言って、篠は俺の隣に座る。
「具合は?」
「ん、平気平気。最初から大丈夫だって言ったでしょー。」
言って、篠が笑う。
「−篠、ごめんな。」
「ん、僕もごめんね。先に言っとけばよかったんだけど、なんかタイミングのがしちゃって。」
軽く笑いながら、篠が言う。
「でも、あんまり気に病まないでね?」
「うん、わかってる。」
答えて、軽く笑う。
俺が気にしていたら、篠まで気にしてしまうから。
だから、気にしてはいけないのだ。
「ありがと。」
言って、篠が笑う。
いつも通りの、優しい笑顔。
「−んじゃあ俺は朱の直すかなー。」
軽く伸びをしながら、尚が呟く。
「じゃあその横で宴会しててやるよ。」
「うわ〜、玄の鬼ー!!」
そんな2人のやり取りを見て、篠も俺も笑う。
そしてそのまま、ホントに宴会に突入。
「−うわっ、もうこんな時間じゃん!!」
時計を見たら、夜の10時になっていて。
朝来たのが9時くらいだったから、ほぼ1日中ココにいたコトになる。
「俺もう帰らなきゃ。」
「あ、朱コレ。」
手渡されたのは、直ったばかりのナイフ。
「あ、アリガト。また何かあったら頼むな。」
それをポケットにしまいながら、笑って言う。
「宴会、程々になー。」
軽く笑いながら言うと、どうだろー、と笑い声が返ってくる。
「−また来てね、朱。…って、ココ尚の部屋だけどさ。」
「うん。篠んとこにも今度行くな。」
「うん、待ってるね。」
言って、篠が笑う。
「−気ィつけてな。」
玄関で靴を履いて立ち上がると、後ろから声をかけられる。
それに振り返って、うん、と笑う。
「…あ、玄。ちょっと聞いていい?」
「ん?」
唐突に思いついて、口を開く。
それに対して、玄は軽く首を傾げる。
「あのさ、タバコで、バニラみたいな甘い香するヤツって、ある?」
「あー…アークロイヤルじゃね?」
「アーク、ロイヤル?」
首を傾げる俺に、玄がそ、と呟く。
「俺は吸わねーからよくわかんねーけど。確か紋とか凛が吸ってたと思うぜ。」
「ふ〜ん…。」
玄の言葉に、軽く頷く。
「あとは、キャスターとか。これは篠が吸ってるヤツな。アロマ・バニラとかゆうのもあるな。」
「え、そんなあるんだ。」
予想外の答えに、少し驚く。
「どーかしたか?」
「ううん、大したコトじゃないんだ。アリガト。」
笑って言って、ドアノブに手をかける。
「−じゃあまたな。」
「おー。」 「また来いよ〜。」 「おやすみ〜。」
3人に手を振りながら、ドアを開けて外に出る。
外はすっかり暗くなっていて。
空には、星がよく見えた。
冷えた、空気。
アルコールの匂いとか、火薬の匂いとか、色々混ざった中で。
微かに、甘い香りがしたような気がした。
「ヒト殺しをさせてみよう」第1騨♪(待て)
ちなみに現在第3騨まで進行中(笑) …長い(汗)や、今回はヒトが多いから…(違 ちなみに最後のかぎかっこ3つは順に玄、尚、篠です。 |