ア カ イ ハ ナ
前編
強がっているわけじゃない。
ただ、心配をかけたくないだけ
「−尚、ちょっといい?」
「お〜朱。どした?」
「んーちょっとココおかしくてさ。」
そう言いながらナイフを渡す。
昨日の仕事の時に落としてしまい、それからなんとなく調子が悪い。
「まぁた壊したのか〜?」
「…う〜ん…ごめん。」
「まぁナイフは壊れやすいしなぁ。」
「でも銃はダメだからさぁ…。」
「そうだなー…んーと、コレ終わってからでもいいか?」
直しかけの銃に手をかけながら言う。
「うん、アリガト。」
笑いながら、頷く。
尚は武器のスペシャリスト。
尚に頼めば、ナイフや銃の製造から改造まで楽々。
俺の使っているナイフも、尚が専用で作ってくれたヤツ。
同じように、みんなそれぞれ専用で作ってもらっている。
「−あ、朱。酒切れたから買ってきてー。」
「…俺、まだ未成年なんだけど。」
少し呆れながら、静かに呟く。
「あ〜…店員売ってくんないかなぁー?」
「普通にムリじゃね?」
「ん〜…じゃあ篠頼むわ。」
「え?」
『篠』と言われて後ろを振り返る。
すると、確かにそこに篠がいた。
「あれ、篠いつからそこにいた?」
「んっと…『未成年なんだけど〜』のトコから。」
「え、全然気づかなかった。」
「ダメだよ〜朱。気配読めないと仕事にならないでしょー?」
「う〜…。」
言って、篠が笑う。
「おいおい篠ー。あんま朱のコトいじめんなよ〜?」
クスクスと、尚が笑う。
「いじめてないよ〜?かわいがってんのv」
「…余計タチ悪ィって…。まぁいいや。じゃあ篠と朱に頼んでいいか?」
「ハイハ〜イ。行こっ朱?」
「うん。」
篠に促されて靴を履く。
後ろから、いつものビールなー、と尚の声がする。
いつもの、って言われてもわかんないから、きっとそれは篠に向けたものなのだろう。
「−あ、朱。コレ持ってけ。」
唐突な声に振り返ると、手元に何かが落ちる。
それは、いつも使ってるのとは違う、バタフライナイフ。
「使いにくいだろうけどさ、何があるかわかんねーし?」
「あ、アリガト。じゃあ行ってきます。」
ナイフをポケットにしまって部屋を出る。
「−ん〜オフで外出んの久しぶりだ〜。」
「そうなんだ?」
「うん、最近って仕事ばっかだったからさ。篠は?」
「僕はけっこう出てるかなぁ?山とか行ってるし。」
「…あぁ、材料取りに?」
「そうそう。」
楽しそうに、篠が笑う。
篠は調合のスペシャリストで、クスリから毒まで楽々。
組織の医療系全般を取り締まってたりもする。
篠の出したお茶を飲むのはけっこう勇気がいる、かも。
「−さて、早く買って帰らないと尚がうるさいね。」
「てか尚ってまだ21なのにオヤジだよなー?」
言って、クスクスと笑う。
「あ〜アル中っぽいもんねー。朱はお酒飲まないっけ?」
「うん。俺酒もタバコもダメ。」
「まぁそれが正しい未成年だけどね(笑)」
「うんまぁね。慧とか凛さんはやるけどな。」
クスクスと笑う篠に、同じように笑う。
「−朱、振り向かないでね。」
「え?」
唐突な声に、笑ったまま首を傾げる。
「−尾けられてる。」
「…マジ?」
自然と、声をひそめる。
「普通にしてて。なるべくヒトのいないトコ行こう。」
そう言って、篠はごく自然に進路を変える。
篠は殺しをしないのに、気配読んだり、消したり。
それ以外でも、ホントすごいのに。
俺は、何ができる…?
人気のない路地裏に辿り着いて、後ろを振り返る。
そこにいたのは20代くらいの1人の男。
「−…で、何か用?」
その男に向かって、篠が聞いた。
いつものように、笑顔を浮かべて。
だけど、少し空気が張りつめていた。
「−おまえらCrimsonだな?」
「だったら何なの?」
「…慧を、知ってんだろ?」
「…君、『BUG』…?」
篠の問いに、男は頷く。
「篠、バグって?」
「えっとねぇ、慧が前にいたトコ。…今さら何の用かな?」
ふわりと笑って、篠が問う。
「…用があるのはおまえじゃない。そっちの赤髪、おまえだ。」
「は?俺?」
少し驚きながら、聞き返す。
「ちょっとウチの方に来てもらうぜ?」
「…やだよ。面倒だし。酒買って帰んなきゃ。」
「…じゃあムリヤリ連れてくまでだ!」
そう言って男がナイフを取り出すのと同時にバタフライを出す。
「−朱、お店寄れなくなるから血は勘弁ね。」
静かな篠の呟きに、オッケー、と返す。
黙ったまま、男と向かい合う。
相手に、少しでもかすれば勝ち。
緊張感が張りつめる中、男が少し動いた。
次の瞬間、俺は後ろで両手を押さえられ首にナイフを当てられる。
「−はっ、なんだよおまえらも大したことねーな。」
人の頭上で、男が笑う。
「…ねぇ、篠…。慧ってホントにココにいたわけ…?」
「…僕もそう思った。でも慧がそこにいたのはホント。」
静かな呟きに、篠が同じように静かに返す。
「おい!おまえら何のんきにしゃべってんだよ!?」
そう言いながら、男がナイフを持つ手に少し力を入れる。
「…だって、ねぇ朱…。」
「うん…。」
「なんだよ!?おまえら、この状況わかってんのか?!」
また少し、力が入る。
「−だってさぁ、僕が見てもわかるよ?君、朱より弱いもん。朱は絶対やられないよ。」
静かに呟いて、篠がゆっくりと笑う。
「−っ!生きて連れてこいって言われてるけどもうやめだ!!」
そう叫んで、男がナイフを振りかざす。
「−篠、ごめん。」
静かに呟いて、降ってくるその手を取る。
そのまま、手にしていたナイフで頸動脈を正確にねらう。
尚から渡されたナイフは、いつものより少し切れ味が悪かったけれど。
その男を殺すのには、十分すぎるほどだった。
飛び散る血に、少し顔をしかめる。
混ざり合う、赤い血と赤い髪。
流れ出る血を抑えながら、男が喘ぐ。
どうせもう、助からないのに。
どれくらいそうしていたかはわからないけれど、男はあっさりと動かなくなった。
「−ごめんな、篠。」
「ん、大丈夫…。でもどうしたの?」
「ん〜…なんかムカついた。人のことモノみたいにさ…。」
答えながら、ナイフについた血を拭き取る。
「…とりあえずお店には僕が行くから、朱は人目につかないトコ帰りな?」
「うん。コイツ、ほっといて大丈夫かな?」
地面に転がるモノに、目を向ける。
「いいと思う。お仲間さんが片付けにくるだろうし。」
「そっか。」
「あ、コレ薬。慧が心配するだろうから、ちゃんと塗っときなよ?」
自分の首を指さしながら、篠が笑いながら言う。
「あ、アリガト。」
笑いながら、小さな入れ物を受け取る。
ナイフを押し付けられた時に少し切ったキズ。
そんなに深くないから痛くはないけど。
「じゃあ、ごめんな篠。あとよろしく。」
「うん、気をつけてね。」
笑いながら、篠が手を振って。
同じように、笑って手を振った。
描写なんて、つっこんじゃダメだよ!(笑) |