色 の

 

 
 
 
「空を飛びたい」
 
 
 
唐突な、だけどありふれた台詞に、僕は顔を上げた。
その目の前で、彼女は笑みを浮かべていた。
 
 
 
 
「…生物学的に、それは無理だろ。」
静かに答えると、夢がない、と彼女はため息をつく。
 
 
 
「実際そうなんだからしょうがない。」
言いながら、僕は読んでいた本を閉じて立ち上がる。
 
 
 
 
 
「−飛んだら、落ちるだけだよ。」
 
 
フェンスに手をかけて、軽く下を覗き込む。
 
 
たかが、学校の屋上。
死なないにしても、落ちたら怪我は避けられないだろう。
 
 
 
 
 
「−…そうね、落ちるだけだわ。」
 
同じように、彼女も覗き込む。
 
 
 
 
 
「羽根があればいいのにね。自由に、空を飛べる翼が。」
 
遠い空を眺めながら、彼女が呟いた。
 
 
 
「翼があったって、飛び方を知らないだろ。ニワトリと一緒さ。」
「どうしてそう、夢がないかなぁー。」
言いながら、彼女がため息をつく。
 
 
現実的なだけだよ、と答えて、読みかけの本のページをめくる。
 
 
 
 
 
「…鳥に生まれてればよかったな。」
 
 
 
彼女の呟きに、僕は黙っていた。
 
 
 
白い紙に印刷された文章を追うのに、頭を使っていたから。
答えるのが面倒だった、というのもある。
 
 
 
 
 
 
「−…そーんな英文読んでて、何が楽しいだか。」
 
 
つまらなそうな彼女の声に、顔を上げる。
 
 
 
 
 
「−読んで理解することは、人間にしかできないからね。」
「機械だってできるわよ。」
「その機械だって、人間が造ったものだろう?」
言って、パタン、と本を閉じる。
 
 
 
「こうして、高度な言語を操れるのだって、人間だけ。」
「まぁ、それは確かにね。」
「鳥には、できないことだよ。」
言うと、彼女がつまらなそうな顔をする。
 
 
「反論できないからムカつくなー。」
だけど、少し楽しそうな表情を見せる。
 
 
 
 
 
「−でも、」
 
呟くと、彼女が何?と首を傾げる。
 
 
 
 
「−君が飛んで行ったら、僕は捕まえられない。人間には、できないことだよ。」
 
 
 
軽く笑いながら、まっすぐに彼女を見る。
 
 
彼女は少し目を丸くして。
だけど、すぐに嬉しそうな、照れ臭そうな笑みを浮かべた。
 
 
 
 
 
それは、彼女が空を舞い、闇に溶ける1週間前の笑顔。
 
 
 
 
 
 
彼女の背中には翼があった。
ただ、彼女は飛び方を知らなかっただけ。
 
 
彼女は確かに、空を飛んだ。
 
 
 
 
僕はまだ、地に足をつけたまま。
君の元へは、飛んで行けないよ。
 

 


2005/3/4
 
短編にも何かを書こうと思ったわけですよ。なんか暗い話になりました、ごめんなさい(汗)
ちなみに彼女は事故ですから(汗々
 
なんか表の小説って、みんな空ばっか?(笑)
でもって、誰か死んでたり痛いのばかり…。えー…ホントに表?(爆
 
こんな暗い話を書きたかったわけじゃないのですよ、ホントは。
切ない話を書きたかったんだけどー…切なくなってますか?(知るか
すっごいどうでもいいけど、「僕」はちょっと優等生っぽい子を目指してみた。きっとメガネかけてる(は?
うん、理屈っぽい、なんてつっこまないであげて(笑)