人 と




意味なんて、ないと思ってた。
理由なんて、あるわけがないと思ってた。

それで、良かった。

自分には何もないのだと、わかっていたから。







「―――――ねぇ、何歳まで生きたい?」


唐突な言葉に、僕は思わず聞き返した。
きっと、とても間抜けな表情をしていたに違いない。

だって全く何の脈絡もなくて。
本当に、突然の質問だったから。

とりあえず僕は寝転がったまま、読んでいた雑誌から目を離した。



「んー・・・、60くらいかな?なんとなく。」

少し笑いながら答えると、彼女は静かにそう、と呟いた。

膝を抱えて座って、少しも笑ってなんていなくて。

何を考えているのか、全く読み取れなかった。



「君は?」

興味本位に聞いてみた。
社交辞令、とも言うのかもしれない。



「・・・そうね、20代でいいんじゃない?」

そう言った彼女は軽く微笑んでいて。
それなのに僕はなんだか、少し寂しい気持ちになった。


「・・・じゃあ、あと数年で死んでいいの?」
「うん。」
「どうして?」

その問いに、彼女は薄く笑った。




「現実感がないのよ。今も、これからも。」


まるでそれが当たり前のコトのように笑うから。
僕は少しだけ、胸が締め付けられたような気がした。


「・・・じゃあ、君は僕とずっと一緒にはいてくれないの?」

その問いに、君は何も答えなかった。


「僕が60まで生きたとして、30年は僕独りになるの?」
「誰か、いい人が現れるわよ。30年もあったら。あたしとあなただって、こうして出会えた。」
「そんな、寂しいこと言わないでよ。」

僕は身体を起こして、彼女と向かい合った。
彼女は変わらずに、笑っていた。



「――――僕は、君と一緒にいたいよ。これからも、ずっと。」


「・・・あたしには、そんな資格なんてないと思う。」

言って、彼女は俯いた。

僕は静かに、何故?と聞いた。



「―――あたしは、自分がココにいる意味がわからないの。生きていることが、何なのかわからない。」


その言葉はとても静かで、とても寂しく響いた。

小さく開けられた窓から、走り去る車の音が静かな部屋に反響する。



「生きてるって、生きるって、何?」

静かに、彼女が呟く。


「動いて、息をして。ただココにいれば、それで生きてるの?意味も、理由もわからないのに。」


そんなの、死んでるのと何が違うの?


震える声で、彼女が呟いた。

俯いたその目から、もしかしたら涙が零れていたのかもしれない。
けれど僕には、彼女の表情までは見えなかった。




「・・・・・・君は、生きてるよ?」
「そんなの、わかってる。・・・ただ生きてるだけが、イヤなのよ。」

顔を上げた彼女の目には、少しだけ涙が溜まっていて。
だけど、彼女は泣いてはいなかった。

泣くことは弱いことだと、彼女は嫌っていた。


泣かないことが強いことではないと、彼女はまだわかってはいないんだ。




「僕は、君に生きていて欲しい。生きて、ずっと一緒にいて欲しい。」


自分勝手な言葉を吐いた。


だけど、それが僕の想い全部だった。




「僕の生きる意味は、君なんだ。僕は、君の為に生きてる。」


だから、君は僕の為に生きてよ


途方もなく、身勝手だと思った。

だけど僕は、心からそう想うから。



君は、泣いていた。

大粒の涙が、大きな瞳から頬を滑り落ちていた。



声を押し殺す彼女を、そっと抱き寄せる。

震えるその肩を、力いっぱい抱き締めた。




「―――もうそんな寂しいこと言わないで。絶対、ね?」


腕の中で子猫のように丸くなる彼女に、微笑んだ。

濡れた瞳で、彼女がとても嬉しそうに笑って、頷いた。



ただそれだけで僕はとても嬉しくて。


ただそれだけで、僕と君は生きていけると想ったんだ。



生きていく意味も理由も、それヒトツで十分だよ。




◇あとがき◇

 
半分実話(笑)

誰かが必要としてくれるだけでも、人って生きていけるのかなって思った。
あたしが必要とすることで、生きていてくれる人もいるのかな。
(2009・7・31)