保持者

 

 

「死にたい」

なんて 思い始めたのはいつからだろう
浮かんでは消えていく傷が
まだあたしをここに繋ぎ止める
 
 
 
よく晴れた夏の日の昼下がり。
少女が一人、屋上で風に吹かれていた。
 
 
その手には、光を反射してよく光るナイフ。
 
少女はそれを軽く腕に乗せる。
少し躊躇ったあと、少女はそれを軽く引いた。
 
一瞬広がる痛み。傷だらけの腕に血が滲んだ。
 
少女は、それを冷たい瞳で見下ろしていた。
 
 
そのとき、屋上へと続く扉が重たそうな音をして開き、一人の少年がやってきた。
その手には冷たい缶ジュース。

 
 
「−ありゃ、先客?って、あー隣のクラスのー…誰だっけ?」
少女は一瞬だけ振り返り、笑って言う少年の問いには何も答えなかった。
 
「うわー、シカトー?って…ずいぶんと楽しそうなコトしてんじゃん。」
少女の腕の傷に気付いて少年が言う。
 
 
「…何なのアンタ…。」
迷惑そうな顔を隠そうともせずに、少女が少年に問う。
 
「2組の山口 捺華 ( ナツカ )でっす。で、アンタの名前思い出せねーんだけど何だっけ?」
「何だっていいでしょ。」
「よくねーよ。思い出せねーと気持ち悪いじゃん、俺が。はい、何?」
妙にテンション高く少年が言う。少女は相変わらず迷惑そうな顔をしたままため息をついた。

 
 
「…川口 鈴華 ( スズカ )。」
「あー!鈴に華って書く人?あの、難しい方の。」
「そうだけど…何なの…。」
「そーだ、思い出した!アンタ俺と同じで名前に華つく人だ!」
更にテンションを上げて、"捺華"という少年が笑いながら言う。
 
 
「華って…アンタどーゆう字なわけ?」
「んーと…こーゆう字。」
少し考えたあと、捺華がポケットからケータイを取り出して、"鈴華"という少女に見せる。
 
 
「…女みたい。」
「バカにすんなよー。」
文句を言いながらも、捺華は楽しそうに笑う。
 
 
「で、何アンタ。死のうとしてんの?」
「…だったら何なわけ?止めんの?」
「や、別にー。死にたきゃ勝手に死ねばいんじゃね?」
サラリと、何の悪意もなく捺華が言う。
 

 
「−傷いっぱいじゃん。ためらい傷ってやつ?死にたいけどこれ以上切れません、みたいな?」
「…。」
「…長袖着てんのって傷隠すため?」
「…ア−」
 
「−アンタに関係ない、って?」
口を開いた鈴華の言葉を遮って、捺華が言う。
 
 
「関係あるあるー。だってほら。」
そう言いながら、捺華が右手のリストバンドを外す。
 
その下からあらわれたのは、白い肌に淡く浮かぶ白い傷跡。
深く太く、周りの皮膚は引きつり、そのときの悲惨さを物語っている。
 
 
「むかーしやったんだけどさ、これ以上痛くてもうムリだったんだよねー。」
何でもないように笑って捺華が言う。
 
 
「俺それ以来カッターとかナイフとか恐ぇし。よくこんないっぱい切れるよなー。」
「…アンタの方すごいから。あたしそんなに深く切れないし…。」
「そっかー?俺痛いのマジでダメ。小せー頃父親に殴られまくったのが原因っぽいんだけど。見るー?」
言うや否や、捺華がシャツのボタンを外して前を開ける。
 
 
服で見えなかった部分に、たくさんの痣や火傷の跡。
 

 
「−…何コレ、ひど…。」
「まぁもう痛くねーけどさー。それに服で隠れるトコばっかだからそこだけは感謝かな?」
明るく笑いながら捺華が言う。本当に、何でもないコトのように。
 
 
「そん時死にたくてやったんだけどさ、もうホント痛くてダメ。血はキレイなのになー。」
言いながら、捺華が鈴華の腕を取る。
 
 
「まーだ血止まんねーんだ。止まりにくい体質?死ぬときいーね。」
冗談まじりに言って、捺華が傷に口付ける。
 
鈴華は少し驚きながら、黙ってそれを見ていた。
 

 
「−ん、止まった。わー痛そー。」
そう言いながら、捺華が外したリストバンドを鈴華の腕にはめる。
 
 
「はい、これで半袖着れるっしょ。この暑い中で長袖とか死ぬぞー。」
「…アンタどうすんのよ。」
「俺は平気。ほら、もう1コあるし。」
笑って答えて、捺華が左手から右手へとリストバンドを移動させる。
 
 
「片っぽだけだといかにも傷隠してますーって感じだけど、俺とおそろだからだいじょーぶ。」
ニッ、と笑う捺華の横で、鈴華は自分の腕を黙って見ていた。
 
 
「…あの、ごめん。やなら外して捨てちゃっていいから。」
「あ、違う…えっとー…あり、がと…。」
照れくさいのか、鈴華が少し俯きながら小さく呟く。
 

 
「−どういたしまして。」

それに対して、捺華が嬉しそうに笑って答える。
 
 
「てか屋上って高いよなー。眺めいー。」
フェンスを掴んで、捺華が下を覗き込む。
 
 
「なー、落ちたら死ぬかな?」
「…こんぐらいじゃムリなんじゃない?」
捺華の横に立って、鈴華も同じように見下ろす。
 
 
「えー、でも当たり所良かったら死ねんじゃねー?」
「当たり所悪かったら半身不随とかなるじゃん。」
「うっわ、それ一番最悪。」
そう言って楽しそうに笑って、また見下ろす。
 
どこかの学年のどこかのクラスが、校庭でボールを追って走り回っていた。
 

 
「−…ねぇ、一緒に飛び降りてみる?」
 
 
唐突に吐かれた捺華の言葉。
冗談でも本気でもなく、ただ言っただけの言葉。
 
 
「…アンタと心中なんかしたくないし。」
「あはは〜言えてるー。
クスクスと捺華が笑う。子どものように、ただ無邪気に。
 
 
 
暗闇は もうすぐそこ
足下にも
空の上にも
この心にも
 
それを照らすのは 君という存在
 
 

あとがき
 
 
今死にたいのは鈴だけなのですが、捺もふらっと死んでもおかしくない感じ。
これは捺の冗談でも本気でもない言葉を書きたかっただけの代物(え)
どこか何か壊れてる子が書きたかったのですよ(笑)
最高どうでもいいけどこの学校は私服高らしい。いいよね、夏でも長袖着れて(暑いけど
当たり所の話は普通は逆なんだろうけど、この子ら(とあたし/ん?)にとってはこれでいーのデス(笑)
 
捺がカッターとか恐くなったのは実話含み。
初めて切ったあと恐くなったのですよ。今は全くもって大丈夫ですが(笑)
血はキレイとかいう発言は打つときにつけたしてみたり(笑)
 
どうでもいいけど、このシリーズで初めて名字出しました(笑)山と川という安易な付け方ですが(笑)
別になくても困らないから出してなかっただけです(笑)