ノンアンリミテッド

 

 

 
 
  いつまで続くかわからないモノ
 
  自分のモノを自分の手で終わらせて
  それの、何が悪いというのだろう
 
 
 
 
「−なぁ、遥華 ( ハルカ )ー。なんで痛覚ってあるのかなー?」
 
唐突な言葉に、「遥華」と呼ばれた少年が顔を上げる。
 
 
「−…彩華 ( サイカ )、意味わかんねぇ。」
酷く面倒臭そうに、遥華が呟く。
それに対して、「彩華」と呼ばれた少年がえー、と返す。
 
 
「そーのまんまじゃん。」
「だから、突然何言ってんだって話だよ。」
遥華が吐き捨てるように言って、読んでいた雑誌へと視線を戻す。

 
 
「−だってさ、痛み感じなかったら、すげー簡単に死ねるじゃん。」
 
当たり前のことのように吐かれた言葉に、遥華は何も答えなかった。
ただまっすぐに、視界に入った白い腕を見ていた。
 
白い肌に幾筋も走る、赤い線。
その下に微かに見えるのは、淡く霞む白い線。

 
 
こんなコトをして、何が楽しいのだろう
 
ぼんやりと、遥華は考えていた。

 
 
「−…あ、血ィ出てきた。」
 
唐突な声に、遥華はその声の主をみる。
そこには、口元に腕を運ぶ彩華の姿があった。
 
 
「…何?」
「んー、カサブタひっかいてたらはがれちゃった。」
言いながら、彩華が軽く笑う。
 
そんな姿を見て、遥華が小さくため息をついた。
 

 
 
「−…彩華。おまえ、死にたいのか?」
 
唐突なその問いに、彩華は笑ったまま返す。

 
 
「−うん、死にたい。」
 
まっすぐに目を見て吐かれた言葉に、遥華はまた一つため息をつく。
読んでいた雑誌を横に置いて、彩華の腕を軽く引っ張った。


 
 
「−何?」
「…。」
不思議そうな顔をする彩華に、遥華は何も答えなかった。
ただ、でこぼことした表面を、軽く撫でていた。
 

 
「−…死ねないのは、痛ェから?」
 
静かに呟かれた言葉に、彩華はそだね、と返す。
 
「自分でやってるとどうしてもなー。痛いと思ったらもう限界。」
手止まっちゃうしなー、と彩華が笑う。
それに対して、遥華はふーん、と返す。
 

 
 
「−なぁ、遥華。俺のこと、殺してくれる?」
 
 
不意に呟かれた言葉に、遥華は顔を上げる。
そこには、優しい笑顔があった。

 
 
「−…いいぜ。」
 
無表情のまま、遥華が呟く。
それに対して、彩華は嬉しそうに笑った。


 
 
「−んじゃ、ハイこれ。」
言って、彩華がポケットから出したモノを手渡す。
遥華の手の中には、どこにでも売ってそうなカミソリ。
 
「ナイフくらい持っとけよ。」
「一般人が持ってるもんじゃないって。」
遥華の言葉に、彩華がクスクスと笑う。


 
 
「−こことか、思いっ切りやってくれればいいよ。」
 
首筋を指差して、彩華が言う。
 
 
「中途半端に止めるのやめてな。一番困るから。」
笑いながら言う彩華に、はいはい、と遥華が答える。
 
指先ですうっと白い首筋を撫でると、彩華がくすぐったそうに笑った。
 
 
ひんやりとした感触が、彩華の首筋に当たる。
それを見下ろす遥華の瞳は、無感情なままだった。
 
 
一瞬の圧迫感があって、彩華の首筋にぴりっと痛みが走る。
ぷっくりと赤い珠が出来上がって、白い肌に赤が滲む。
 
 
華は、黙ってそれを見ていて。
彩華は、遥華をまっすぐに見ていた。


 
 
「−…悪ィ、やっぱムリだわ。」

 
静かに呟いて、遥華が手を下ろす。

 
 
「…これ限界。これ以上は、ムリ。」
言って、遥華がカミソリを床に落とす。
音を立てて落ちたそれは、床にいくつかの小さな赤い染みを作った。
 

 
「−だよな、普通にムリだよな。」
言って、彩華が軽く笑う。
 
 
「遥華が限界知っててよかった。危うく殺人犯にしちゃうとこだったな。」
言いながら、彩華が楽しそうにクスクスと笑う。
遥華は、黙ってそれに手を伸ばした。
 

 
「−って。」
 
伸ばされた手が、彩華の首筋の赤を掬い上げる。

 
 
「−…おまえも、限界知っとけよ。」
 
呟かれた言葉に、彩華は一瞬驚いた顔をして。
すぐに、ふっ、と笑った。
 

 
「−大丈夫。遥華、いるから。」
 
はぁ?と怪訝そうな顔をする遥華に、彩華が笑いかける。
 
 
「痛いのもあんだけどさ、遥華いるから、死にたくないんだよね。」
「…じゃあ、俺が死んだら死ぬのかよ。」
「うん。」
当たり前のことのように吐かれた言葉に、遥華はため息をつく。
 
 
「…おまえ、意味わかんねぇよ。」
「やっぱり?俺もそう思うわ。」
クスクスと笑いながら、彩華が言う。
 
 
遥華の見ていた雑誌を取って、彩華がページをめくっていく。
彩華の首筋に薄く浮かぶ赤を、遥華は黙って見ていた。
 

 
「−…彩華。」
 
静かに呟かれた言葉に、彩華がんー?と返す。

 
 
「−もし、おまえが死んだら、俺も死んでやるよ。」

 
唐突な言葉に、彩華が顔を上げる。

 
 
「だから、いつだって死んでいいぜ。」
 
静かに吐かれた言葉に、彩華は一瞬面喰らう。
だけどすぐに、とても嬉しそうに笑った。
 
 
 
 
  いつまで続くかわからないモノ
  だけど、いつまでも続くモノではないから
 
  ギリギリまで生きるのも、自分で終わらせるのも
  とりあえず限界までやってみるのも、悪くない
 
  どの世界にも、君がいるから
  限界は、君が教えてくれるから
 

◇あとがき◇
えー、新年1発目がコレ(笑)
最近、名前のストックがなくなってきました(笑)
なので、もう書いてるヤツの続編っぽいの書こうと思ったのですがね。
ちゃらけたヤツがリスカしてる話がなかったため。仕方なく新しいヤツらにしましたー(笑)
 
痛覚なかったらいいよねって話だったんですけどね、最初は。
なんだか変わっていきました(笑)まぁ、そんなもんだよねってコトで(笑)
 
ノンアンリミテッドってのは、リミット(限界)の否定のアンリミテッド(無限)のそのまた否定。
つまりは限界って意味で。
ぶっちゃけ造語(爆笑)
 
 
誰か名前の案をあたしにくださーい(笑)
 
(2005/1/1)