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ハ ル ノ ソ ラ

 

 

 
 
「―なぁんで、痛覚ってあるんだろ?」
 
 
赤い腕を投げ出して、彩華が呟いた。
その瞳は軽く閉じられ、その上に片腕を乗せている。
 
力を抜いた手からカミソリが落ちて。
コンクリートの上で軽い音を立てた。
 
 
 
「…おまえ、前にも同じこと言ったよな?」
「んー?んー……あ、言ったかも。」
遥華の言葉に、彩華がのんびりと答える。
 
 
「だってそう思わねぇ?痛み感じなきゃ簡単に死ねるじゃん。」
「…まぁ、な。」
まぁ遥華に振ってもどうしようもない話だろうけどさ。」
「わかってんなら振るな…。」
言いながら、遥華が呆れたような顔でため息をつく。
それに対して、彩華はごめんごめんと笑って言う。
 

 
 
「―痛みは、自衛なんだよ。」
「ジエイ?」
「自衛隊の自衛。」
遥華の言葉に、彩華がなるほど、と呟く。
 
 
「自分を守るため、ってこと?」
「そう、でなきゃ加減知らずにおまえみたいなのがじゃんじゃん死んでくだろ。」
「あー、なるほどねぇー。」
言って、彩華が笑う。
 
「でもさ、世の中そんな死にたい奴ばっかでもないんじゃね?」
「そりゃそうだけど、大怪我しても痛くないからって気付かないうちに死んでるとかあんだろ。」
「あー、確かに。遥華ちゃんと考えてんだなぁ。」
「いや、普通だろ…。」
呆れる遥華に、彩華があははと笑う。
 

 
 
 
「―…なんでだろ。」
 
 
彩華の小さな呟きに、遥華が何、と呟く。
 
「…なんでさぁ、俺今こーやって遥華といて、楽しいのに。」
呟いて、彩華が軽く目を閉じる。


 
 
「―なのに、なんでこんな死にたいんだろ。」
 
彩華の呟きに、遥華は黙っていた。
彩華は、青い空を見上げていた。
 
 

 
「―…知るかよ。」
 
遥華が呟いて、タバコに火を点ける。

 
 
 
「―…なぁ、遥華。」
 
 
彩華の呟きに、遥華がダルそうに顔を上げる。
 
 
「…やめろ、って言って。」
「…何を?」
遥華の言葉に、彩華が黙って腕を差し出す。
幾重にも引かれた赤い線が、真っ白な肌を彩る。
 

 
「…言えねーよ。」
遥華の呟きに、彩華がうつむく。

 
 
「―おまえ、ホントは生きたいんだろ?生きるために、切ってんだろ?」
「…。」
「なのにんなこと、言えっかよ…。」
言いながら、遥華も軽くうつむく。
 
苛立ちを抑えるためか、タバコをコンクリートの床に押し付けた。
 

 
 
「―…死ぬな、とは言わねーよ。」
 
唐突な呟きに、彩華が顔を上げた。
 
 
「…死にたきゃ死んだっていい。…ただ、死ぬ前まで俺の傍で生きて、笑ってろ。」
 
遥華の言葉に、彩華が泣きそうな顔のまま、驚いた様子を見せた。
 
「でなきゃ俺がつまんねぇだろ。」
言って、遥華がそっぽを向く。
彩華は、しばらく何も言わずに、自分の腕を見下ろしていて。
 
唐突に、ふっ、と笑い出した。

 
 
「―遥華、チョー自己中。」
 
言って、彩華がクスクスと笑う。
 
「うっせーよ、バカ。」
照れ臭そうに遥華が言って、彩華の頭を軽く小突く。
 

 
「―…さんきゅー。」

 
小さな小さな呟きに、遥華は何も答えずに。
ただ、彩華の頭をポン、と優しく撫でた。
 
 
 
見上げた空は青く澄み渡っていて。
すぐそこに、春の訪れを告げていた。

 

◇あとがき◇
 
え、ムリヤリ終わらせてるのにはつっこまないでください(笑)
久々に書いたなぁこいつら。1年以上経つのねー。うわぁ(何
 
なんとなく、自衛って言いたかっただけ。
結局なんで深く死んじゃうまで切れないかってゆうと、痛いからなんだよね。
それはしゃーない。人間のってゆうか、生きてるものの本能だかんね。
痛みを感じなければ、みんな生まれてすぐに死んでしまうんじゃないかなって思う。
 
(2006/3/7)