vanilla
「−…バニラアイス買ってきてー。百円の安ーいヤツでいいからさ。よろしくー。」
気をつけてね〜と言いながら、相手が何かを言う前に電話を切る。
「−…暑ーい…。」
携帯を放り投げて、少し大きめのソファーの背に体を預ける。
遠くで、セミの声がした。
−コンコン
「−…どうぞー…。」
軽いまどろみの中で聞こえた音に、目を閉じたまま返事をする。
「−こんにちは、紋さん。」
「昂。どうしたの?」
聞き慣れた優しい声に、顔を上げる。
そこにあったのは、優しい笑顔。
「ちょっとコンビニに行く用事があったので。それのついでです。」
言いながら、昂がコンビニの小さな袋を目の前におく。
「−あ、アイスだー。昂ありがと〜。」
「紋さんはすぐ誰かに頼みますからね。」
「あはは〜もう黄に頼んじゃった。」
えへ、っと笑う僕に、昂が少し呆れたように笑う。
「まぁ黄は仕事行ってるし買ってこれないと思うけどね。いっただきまーす。」
カップの蓋を開けて、スプーンとさくっと入れる。
少し溶けたそれは、容易にスプーンを埋めた。
「…と言うか、この部屋暑くありませんか?」
軽く手で仰ぎながら、昂が言う。
「うん、暑いよ。夏だしねー。」
「冷房はつけないんですか?」
「あ、つけていいよー。リモコンそこらへんにある?」
「えーと…あ、これですね。」
ピ、という音がして、冷たい空気が流れる。
「この暑さでよくいられましたね。紋さん暑いの平気でしたっけ?」
「ううん、全然。さっきまで死んでたし。」
「じゃあどうしてつけてなかったんですか?」
不思議そうな顔で、昂が聞いてくる。
「うーん…冷たい、じゃん。」
「…部屋が、ですか?」
「んー…っていうか、空気?」
コトン、とアイスのカップを置いて、手を伸ばす。
「なんかさ、こーゆう因果な仕事じゃん?時々、何も感じなくなるんじゃないかなーとか思ったり。」
少し考えながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「自分の心はきっと、とうの昔に冷え切ってるから。てか何言ってるのかわかんなくなってきた。」
少し笑って言う。
昂は何も言わなかった。
「…僕が揺らいじゃいけないのはわかってるんだけどさ。これでも一応は人間だし。」
軽く自嘲気味に笑って呟く。
何も掴むコトのない手が、空を切った。
「…珍しいですね、あなたが弱音を吐くなんて。」
「だってさー、僕がそーゆうコト言っちゃダメでしょー?」
「そうですね。」
言って、昂が微笑む。
「吐ける相手だって昂しかいないし。」
ソファーに背を預けて、後ろにのけぞるようにして両手を伸ばす。
冷えた空気がまとわりついて、そのまま軽く伸びをした。
「−ん、何?」
唐突に手を掴まれて、昂に問いかける。
「−…うまく言えませんが…。人の暖かさ、ですよ。」
ふわりと微笑んで言われて、自分の手と、それを掴んでいる昂の手を見る。
「−…そっか…暖かいね。」
冷えた空気の中で、昂の手がすごく暖かくて。
それがすごく嬉しかった。
「紋さん、アイス溶けてしまいますよ?」
「え、あ、ホントだ。」
少し焦って、カップへと手を伸ばす。
「本当に好きですよね。」
「うん。昂も食べる?」
言いながら、カップとスプーンを差し出す。
「いえ、いいです。」
「僕からのモノが食べられないって言うのー?」
少しふざけて笑いながら言う。
「その言い方は狡いですよね。」
クスクスと笑って、昂がカップを受け取る。
「じゃあ一口いただきます。」
「どうぞ〜。」
クスクスと笑って答える。
溶けかけたアイスが、昂の口へと運ばれて、消えた。
「甘いですね。」
「そりゃあねぇ。昂、甘いの嫌いじゃないでしょ?」
「ええ。ごちそうさまでした。」
「はいは〜い。」
昂からカップを受け取って、残ったアイスを一気に食べる。
「ごちそーさまでした。う〜ん満足。」
「おそまつさまです。」
言って、昂がカップとスプーンを片づける。
「あ、ごめんねー。ありがとー。」
「動く気ありませんからね、紋さんは。」
「えへへ〜。昂はあと何か用事あるの?」
「用事と言うか、凪に頼まれたものを届けるぐらいですかね。お菓子ですが。」
「なるほどー。だからコンビニ行ったんだ。」
袋を指差す昂を見て言う。
「まぁ、もともと用事あったのでそれもついでなんですけどね。何か食べますか?」
言いながら、昂が袋の中をガサガサと探す。
「え、だってそれ凪のなんでしょ?」
「たくさんありますし、一つくらい大丈夫ですよ。」
「いいんだ。」
言って、クスクスと笑う。
「…昂はー、凪のコト大事だよね。」
「何ですか、突然。」
唐突な言葉に、昂が少し驚く。
「なんとなーく。大事でしょ?」
それに対して、笑いながら問う。
「まぁ…それはーそう、ですね。」
「いいなー。大事、とか、そーゆうの。」
言いながら、昂の横にごろんと寝転がる。
「紋さん−」
「−ねぇ、どうして?凪のコト、なんで大事?」
笑いながら、昂に問う。
「なんで、と言われましても…。」
それに対して、昂は少し困ったように笑う。
「−…自分と、同じだから?」
言いながら、昂の腹部に手を触れて笑う。
きっと、「マリア」の顔をして。
「−…あの子は、私とは違いますよ。」
少し俯き加減に、昂が呟く。
「…知ってる。」
ふっ、と笑って、手を離す。
−コンコン
少し勢いをつけて起きあがって、黙ったままドアへと歩き出した。
「−あれ、黄。どうしたの?」
そこにあったのは、血に濡れた黄の姿。
「どうしたの、って…おまえが買って来いっつったんだろ。」
面白くなさそうに言って、黄が何かを差し出す。
それは、自販機で100円とかで売ってるアイス。
「…え、わざわざ買って来てくれたの…?」
「なんだよ。買って来いって言ったのおまえだろーが。」
「そう、なんだけどさ…。そんな格好だろうし、まさか本当に買って来てくれると思ってなくて…。」
すごい、嬉しい。
笑って言うと、黄が少し照れたような顔をする。
「−黄さんも、紋さんの世話大変ですね。」
「昂。いたのか。」
「ちょっと、昂ー。その言い草は何さー。」
後ろを振り返って、少し文句を言う。
「こいつの世話なんか、おまえの方が大変だろ。」
「ちょっと、黄までそんなコト言わないでよ。」
「ええ、本当に手のかかる人で。」
「ちょっとちょっとー。」
シカトー?と言いながら、昂と黄を交互に見る。
「じゃあ俺帰るわ。紋、面倒だからもう言うなよ。」
「え、あ、たぶん。ホントありがとね。」
言って、ニッコリと笑う。
黄は何かを言いたそうにしていたが、何も言わずにそのまま出ていった。
手元に残った、棒つきのバニラアイス。
「−紋さん。冷凍庫に入れとかないと溶けてしまいますよ?」
その声に振り返る。
そこにあったのは、いつも通りの優しい微笑み。
「それとも、もう一つ食べるんですか?」
「…ううん、あとで食べる。昂の煎れたコーヒーのあととか。」
「では煎れてきますね。勝手に使わせていただきます。」
言って、昂がニコリと微笑む。
いつも通りの、優しい優しい笑顔。
なんだかよくわからないけれど、涙が出そうになって。
それを悟られたくなくて、背を向けた昂の後ろで少し俯いた。
君の優しい優しい笑顔に
僕がどれだけ救われているのかなんて
君は知らないんだろうね
だけど
君は優しすぎるから
僕はとてもとても罪深いから
一緒にいると
君まで汚してしまいそうで、恐くて
だけど
その優しさに触れてみたいと 思ってはいけませんか?
君と一緒にいたいと 願うのは罪ですか?
「笑顔とナイフ」の裏話みたいな感じ。微妙に長くなった…(遠い目
初めは、昂が紋を餌付け(え)するだけの話だったんだけどなぁ。あ、クーラーの話もあった。
何か書きたいコトをいろいろ詰め込んだらここまできた(笑)
途中ちょっと意地悪っぽいっつ−かなんつーかなコトをさせましたが。
たまに紋にも弱音を吐かせたかったのですよ。
紋だって完璧な人間じゃないんです。きっとホントは誰より脆いのかもしれんし。
で、最後に黄を登場させてみたり。立場ないんで(笑)
最後の詩がやけに長くなってしまいまして。あれで一つ詩アップできるって話(笑)
ホントはもう一ついれたいコトあったけれども。長いのでやめます(笑)
そのうち短く書こうと思いつつー。予定は未定で(笑)
さてさて。昂は今スパイ中でいないんじゃないか?なんてコトには突っ込まない方向でお願いします(笑)
予想以上に仕事が早かったってコトで片づけておこう(笑)
どうでもいいけど、黄が買ってきたのはセブン●ィーンアイスですヨ。
あれって今110円くらいだっけ??(どうでもいいって
ちなみに、きっと昂が買ってきたのはハーゲ●ダッツ。 |