笑顔の
 

 
  その笑顔に、どんな感情 ( キモチ )を隠して
 
  どれだけ
  心の中で泣いているの?
 
 
 
 
「−白、そっち終わった?」
「うん。哉ちゃんは?」
「こっちも終わった。じゃあ、予定通りの場所で。」
「了解。」
携帯を切って、足早に駆けて行く。
足下に転がっているモノにつまづかないように。
 
 
 
 
「−哉ちゃん、こっち。」
 
その場所に行ったら、白はもう来ていて。
アタシはその姿に向かって同じように軽く手を振った。
 
 
「ごめんね、待った?」
「ううん、大丈夫。」
「じゃあ行こっか。」
「うん。」
そしてアタシたちは歩き出す。
今日の仕事を、終わるため。
 
 
 
 
 
 
「−…あなたが、ココの社長さん?」
 
一番奥の部屋でぶるぶると震えていた男に笑いかける。
 
 
 
「−っおまえ、たった1人でここまで来たというのか!?」
 
より一層脅えた男の問いにアタシはクスクスと笑う。
 
 
 
「っな、何がおかしい!?」
「…もう1人いるじゃない?あなたの後ろ。」
そう言うと、男は自分の後ろを振り向こうとした。
けれどそれは叶わなかった。
 
なぜならその瞬間、男の首には細いワイヤーが巻き付いていて。
ほんの一瞬で、その首を落としていたから。
 
 
 
「血の雨」に例えられるような、大量のドス黒い血が降ってくる。
 
 
あぁ、人間の体内には何リットルの血があるんだっけ?
 
とか、どうでもいいコトを思った。
 
 
いつからか、ヒトを殺すコト、死んでいくコトに何も感じなくなった。
 
日常生活に入り込んだそれは、罪悪感のカケラすら感じさせなくなった。
例えば、道端で小さなアリを踏み潰してしまったときみたいに。
 
 
 
 
 
「−哉ちゃん、大丈夫?」
 
雨の中に佇む白が、笑いながら聞いてくる。
黒い髪が、赤く染まる。
 
 
「アタシは被害ナシ。そーゆう白こそ大丈夫?血だらけだよー?」
「うん、ちょっと気持ち悪い。」
「じゃあ…あ、あっちで洗おっか。」
「うん。」
足下に広がる血の海に足を取られないように気をつけながら、白が歩いて来る。
 
 
 
 
「−あ、ゴメン哉ちゃん。水出して。
「はいはーい。」
笑って答えて、蛇口をひねって少し勢いよく水を出す。
 
 
「ありがとう。」
言って、ニッコリと笑う白。
 
いつから、白もヒトを殺して笑っていられるようになったのだろう。
 
 
 
 
「−…あ、白ちょっとゴメンね。」
「ん?」
かけてあったタオルを外して、水で濡らす。
 
「髪にもついちゃってるからさ。」
「あ、ありがとう。」
髪についた血と、顔に少し残った血を、塗れたタオルで擦る。
 
 
「−ん?どうしたの、白?」
 
突然、白がクスクスと笑い出したから、アタシは何かと思って手を止めた。
 
 
「あのね、あの時と逆だなぁ〜って思って。」
「…あぁ、あの時ね。」
たぶん白が言ってるのは、あの時。
 
ちょうど、今から1年くらい前のコト。
 
 
 
 
 
 
 
−…ヤバイ、見られた。
 
 
ターゲットに集中していて、人影に気づけなかった。
情けない。
 
 
 
「−…桐生 ( きりお )、さん…?」
 
消すべきかどうしようか悩んだ一瞬に、聞いたコトのある声が聞こえた。
 
 
「−っ白谷 ( しらや )、君…。」
 
アタシはすごく驚いた。
そこにいたのは、同じクラスの白谷 那月 ( なつき )君。
 
 
…でも、クラスメイトでも関係ない。
見られてしまったモノは仕方がない。
 
 
少し、右手に力を入れる。
 
 
 
 
「−…あの、桐生さん…手、ケガしてるけど大丈夫…?」
 
瞬間、手が止まる。
 
 
 
「…白谷君、目見えてんの?」
アタシの足下には「ヒトだったモノ」が転がっていて、誰がどうみたって、やったのはアタシ。
白谷君だって、それはわかっているはずなのに。
 
 
「…見えてる、けど…。」
「−じゃあなんでアタシの心配なんかしてんの?警察とか、呼べばいいじゃない。」
同じクラスとは言っても、ほとんど会話なんてしたことがなくて。
まともな会話をしたのは、それが初めて。
 
けれど、アタシは何故か酷く苛立っていた。
 
 
 
「そんなの、できないよ。」
何故かはわからないけど、白谷君はそう言って。
アタシは酷く苛ついて、右手を動かした。
 
 
 
 
「−っ!!」
 
 
ワイヤーを首に巻きつけて、そしてゆっくりと力を入れる。
白く、細い首筋に、少しずつワイヤーが食い込む。
 
 
 
 
「−…なんで、逃げようともしないの…?」
 
何の抵抗もしない白谷君が不可解で、アタシは困惑する。
それに対して、白谷君は何も言わずに小さく微笑んだ。
 
その態度に酷く苛立って、だけどほとんど無意識にワイヤーを外していた。
 
 
 
「−…桐生、さん…?」
「…。」
首を手でおさえる白谷君に、アタシは背を向ける。
 
 
「−っ待って!」
「−っ!」
「あ、ゴメン…。」
掴まれた手の傷が痛くて、それに気づいて白谷君は手を離す。
 
 
「…何か、用?」
「あ、あの…家、すぐそこだから、手当とか…した、方が…。」
途切れ途切れに呟かれた言葉に、少し呆れる。
 
 
「白谷君さぁ、殺されかけたんだよ?なんで、まだあたしの心配とかするわけ?」
「だって、痛そう、だし…。」
そう言った白谷君には、悪意というモノのカケラすら感じられなくて。
ため息を一つついて、案内されるがままに後についていった。
 
 
 
 
「−…痛かったら、言ってね。」
「大丈夫…。」
白谷君は意外とって言ったら失礼だけど、ちゃんと消毒をして、器用に包帯を巻いてくれている。
 
 
アタシがびっくりしたのは、白谷君の家はすごい大きくていかにもお金持ちって感じなコト。
必要以上に話したコトがなかったから、彼に関してアタシは何の情報も持っていなかった。
 
 
 
「−…ねぇ、桐生さんって…殺し屋、とかなの…?」
 
少しずつ、様子を伺うようにして、白谷君が聞いてくる。
 
 
「…なんで、そう思うの?」
「んーっと…手慣れてる、から?ワイヤーとか、一般人がそう簡単に扱えるモノじゃないだろうし。」
「…まぁ、ね。」
答えながら、そう言えばこの人頭良かったな、とぼんやり考えていた。
 
 
 
「…いつ、頃から、やってるの…?」
「入ったのは半年前くらいかな。…仕事、始めたのは3ヶ月前くらい。」
静かな問いに、同じように静かに答える。
 
 
 
「−…ボクは、どう、なるの…?」
 
その問いに、アタシは少し言葉に詰まる。
 
 
「…見られたら、とる行動は2通り…。」
静かに、呟く。
白谷君は、黙っていた。
 
 
「…1つは、口封じ。」
「…もう、1つは…?」
「もう1つは…。」
そこでアタシは一旦言葉を切る。
 
 
「−…組織に入れるコト。」
「…。」
「…どっちがいいかは…白谷君が選んで。」
白谷君はそれを聞いて何も言わなかった。
当たり前だ。
たまたま殺人を目撃したせいで、殺されるかヒト殺しになるかの選択を迫られているのだから。
 
 
 
「−…できた。」
「…アリガト…。」
手当の終わった、キレイに包帯の巻かれた左手を見る。
 
 
 
「−あ、ちょっと待ってて。」
「え、うん…。」
なんだろうな、って思ってたら、白谷君は塗れたタオルを持って帰って来た。
 
 
「ちょっとゴメンね、髪にもついちゃってるからさ。」
そう言って、優しく血を拭う。
 
 
「……白谷君、どう、する…?」
アタシの言葉に、白谷君は少しの間考えているようだった。
 
 
 
「−…一緒に行くよ、桐生さんと。」
「っいいの…?だって…。」
 
殺し屋に、なっちゃうんだよ?
 
最後の言葉を、アタシは飲み込んだ。
 
 
 
「うん。…さっきまで、別に死んだってよかったんだけどね。なんか、死にたくなくなっちゃった。」
「…どう、して…?」
それに答える代わりに、白谷君はニッコリ笑って終わったよ、って言った。
 
少し気になったけど、それ以上は聞かずにアタシは立ち上がった。
 
 
 
「…もう後戻りできないけど、ホントに、いいの…?」
「…うん。もう、決めたから。」
同じように立ち上がって、白谷君が笑った。
 
 
 
 
 
 
 
「−…コードネーム決めといちゃおうか。」
 
帰り道、白谷君を連れながらアタシは言った。
 
 
「コードネームって?」
「えっとねぇ…組織での呼び名っていうか…。みんな漢字一文字で統一されてんだよね。」
「へぇー、なんかカッコイイね。」
言いながら、白谷君が笑う。
 
「そっかな?大体はみんな名前をそのまま使ってるんだけどさ…白谷君はどうしよっか…。」
「あ、そっか…半端な名前してるなぁ僕。」
「かわいいよね。アタシ最初聞いたとき女の子かと思った。」
笑いながら言うと、よく言われる、白谷君が困ったように笑った。
 
「顔も女の子みたいだよね、カワイイ。」
「からかわないでよ、桐生さん。」
「ごめんごめん。で、どうしよっか?」
「あ、そっか。えっとねぇ…。」
言って、白谷君は少し考える。
 
 
 
「−…白って、どうかな?」
「ハクって、白いって字の?」
「うん。名字から一文字とってみた。」
言って、白谷君が笑う。
 
「なるほどね。うん、いいんじゃないかな?」
「ホント?よかった。あ、ねぇ。僕は何て呼べばいい?」
「ん、哉でいいよ。アタシそのまんまだし。」
笑いながら、そう言う。
 
 
「えっと…じゃあ哉ちゃんで。よろしくね。」
「うん。こちらこそよろしく、えっと、白。」
2人でクスクス笑いながら言って、歩いていた。
 
そうしてアタシは、白を仲間にした。
 
 
 
 
 
 
「−よし、終わった。」
「ありがとう。」
いつもと同じように、白がニッコリと笑う。
 
 
「…ねぇ、白…聞いてもいいかな…?」
「何ー?」
「えっとさ…。」
少し躊躇いながら言う。
 
 
「…なんで、あの時、組織に入ったの…?」
「ん〜…じゃあ、なんで哉ちゃんは僕を殺さなかったの?」
「え、なんでって…。」
まさかそんなコトを聞かれるとは思ってなかったから、アタシは少し動揺した。
 
 
「…なんで、だろ…?」
「ボクに聞かれたってわかんないよ。」
「あ、そうだね、ゴメン。」
クスクスと笑う白に、笑って言う。
 
 
 
 
「−…ボクねぇ…別にあの時死んだってよかったんだ。」
「なん、で…?」
少し寂しそうに笑う白に聞く。
 
 
「なんでだろ?別に、毎日生きてて楽しいコトもなかったから。」
「…。」
「でも、組織に入ったのはー…。」
そこまで言って、白は少し躊躇う。
 
 
 
「…哉ちゃんのコト、もっと知りたい、って思ったから。」
「え、アタシ?」
「そう。」
言って、白はニッコリと笑う。
 
 
「あの頃って、哉ちゃんと全然話したコトなかったじゃん?でも、僕はけっこう見てたんだ。」
「え、ウソ。全然知らなかった。」
「えへへ、実は見てた。」
言って、白が笑う。
 
 
 
 
「あの頃の哉ちゃんって、楽しそうに笑ってるのに、ふとした瞬間に影が落ちるんだよね。」
思い出しながら言うように、白が少し遠くを見る。
 
「それって、どうしてだろうな、って思ってて。気が付いたら、いっつも見てた。」
「うわ、恥ずかしいー。話しかけてよ、そーゆう時は。」
「ちょっと、勇気が足りなくて。」
言って、白がクスクスと笑う。
 
 
 
「−入って良かったと思ってるよ。哉ちゃんと仲良くなれたし、みんなとも知り合えたし。」
 
前に比べたらす、ごく充実してる
 
 
そう言って、白が笑う。
 
 
 
 
「−…だから、哉ちゃんが気に病まないで?」
 
少し困ったように、白が笑った。
 
 
 
「…気付いてたの?」
少し俯いて、呟く。
 
アタシは、白を組織に入れたコトを少し後悔していた。
こんなに優しい白を、ヒト殺しにしてしまったコトを。
 
 
 
「うん、なんとなく…哉ちゃんは、優しいから。」
 
呟いて、白が微笑む。
優しい優しい、笑み。
 
 
 
 
 
「…帰ろっか?」
「−うん。」
白が笑うから、アタシも笑った。
 
 
白が言ったコトは、全部がホントではないけれど、きっとウソでもないから。
アタシも、きっと、みんなも思っているコト。
 
けれど、それは絶対に表には出さない。
出してはいけない。
 
 
 

 
 
人殺しをさせてみよう第3弾♪
人間の身体には血が何リットルってのは実際気になるトコロ(ぇ)体重によって違いますヨ(笑)
最初、コードネームのあたり紋と話してたんだけどね。なんか微妙でやめちゃった(笑)
 
ちょっぴり白の過去話な感じ。つかもはや告ってるようなもんだよ、これ(笑)
この2人は恋人じゃあないです。なんか友達以上恋人未満なくらい。
お互いにそんな関係が好きなんだと思う。
 
なんか最近本名公開な話が続くね(笑)
哉が「桐生 哉」で、白が「白谷 那月」デス。
この2人は通り名ナシで。ワイヤーな2人組〜。
那月ってさりげに気に入ってます(笑