矛盾連鎖  


 
特に不思議だとは思わなかった。
気づいたら、それがもう当たり前の世界だったから。
それが、僕の生きる意味だったから。
 
 
 
 
「―紋、おまえ泣かねぇの?」
 
あまりに唐突なセリフに、とても間の抜けた顔をしたのだろう。
相手が、おかしそうに笑ったから。
 
「何つー顔してんの、おまえ。」
「拓ちゃんが急におかしなこと言うからでしょー。」
「おかしなこと、ねぇ…。」
言いながら、拓ちゃんが軽く頭をかく。
何が言いたいのかわからずに、軽く首をかしげた。
 
 
「おまえさ、何とも思わねぇの?」
「何が?」
「俺たちの、してること。」
言いながら、タバコに火がつけられる。
独特の香りに、思わず息を詰める。
 

 
「―ヒト、殺してんだぜ?」
 
白い煙を吐き出しながら、拓ちゃんが呟く。
舞い上がった煙が空気に溶けて、消えた。
 
「…だって、そーゆう仕事じゃん。」
「…そーかよ。」
呆れた顔で、拓ちゃんがため息をつく。
 
「かわいくねー。」
「しょうがないじゃん。僕初めからこの世界にいるんだもん。」
 
 
この世界しか、知らないんだから
 
 
言うと、拓ちゃんは何も言わなかった。
ただ、ぼんやりとどこかを見ていた。
 

 
「―…んな、簡単なことじゃねぇだろ。」
 
小さく呟いて、まだ長いタバコが灰皿に押し付けられる。
 
 
唐突に、ポン、と頭に手が置かれて。
その意味を考えるよりも先に、大きな手が優しく頭を撫でた。


 
 
「―…ずるいよ…。」
 
消え入るような声で、落とすように呟く。
ふっ、と、目の前で拓ちゃんが優しく微笑んだ。
 
その瞬間、ガラガラと何かが音を立てて崩れたような気がした。
 
 
 
「―ガキは、素直な方がカワイイぜ。」
 
 
拓ちゃんの呟きが、優しすぎて。
抑えていた気持ちが、溢れた。
 
涙が、止まらなかった。
 

 
気づきたくなかった。
自分の、こんな弱い気持ちに。
 
だけど、誰かに気づいて欲しかった。
 
僕の弱さを、受け入れて欲しかった。
 
 
 
 


 
「―命さんには、言わないでね。」
 
どれくらい、時間が経っただろう。
紋が、もう何度目かわからない言葉を吐いた。
 
「わーったって。何回言うんだよ、おまえは。」
「だってー。」
「ハイハイ、わかったから早く行けって。命、帰ってくんぞ。」
「え、ウソ。」
言って、紋が急いで立ち上がる。
 
 
んなウサギみたいな目してたらバレるっつの
 
思いながら軽く笑ったら、紋が少し不服そうに頬を膨らませた。
 
 
「拓ちゃんのバカー。」
 
捨てゼリフを吐きながら、紋がドアノブに手をかける。
そのドアが、紋が開けるよりも先に、開いた。

 
 
―――拓、いるー?」
「よー。命早かったな。」
不意に視界に入ってきた姿に、軽く笑いかける。
 
 
「あれ、紋もいた。」
「あ、うん。お帰りなさい、命さん。」
背の低い命が、自分よりも小さい紋を見下ろして。
紋は、少し俯きながら困ったように笑った。
 

 
―――紋。」
 
名前を呼ぶと、入り口の子どもが2人振り返る。
 
 
「仕事、遅れんぞ。」
「え、あ、ホントだ。行ってきまーす。」
「お〜、気をつけろよー。」
足早に駆けて行く紋に、命が笑いかける。
 
パタン、とドア閉まって、静寂だけが残った。


 
 
「―…アイツに、何言った?」
 
静かな空間に響いた静かな声に、薄く笑う。
 
 
「…昔、おまえにもしたこと、かな。」
同じように静かに返すと、命が静かにため息をついた。
 
「…おまえ、最悪。」
「おまえに言われたくねぇよ。」
言うと、命がはぁ?と眉根を寄せる。

 
「―ホントなら、おまえがやらなきゃいけないことだろ。」
「…。」
「面倒見切れねぇなら、さっさと捨てろ。」
命は、何も言わなかった。
いや、たぶん、何も言えなかった。
 

 
「―…気づかないフリすんのは、優しさなんかじゃねぇよ。」
「…。」
「ガキにとっては、そんなんただの拷問だ。」
言いながら、タバコに火を点ける。
命はまだ、黙っていた。

 
 
「―…おまえ、ムカつく。」
「はっ、上等。」
言って、軽く笑う。
 

 
―――だったら、俺の手煩わせんじゃねぇよ、ガキ。」

 
ムカつく、と吐き捨てる命に、くつくつと笑いかける。


 
 
「―…おまえさぁ、アイツのこと大切にしたいの?壊したいの?」
 
静かに、目を見て聞いた。
笑わずに。
 
 
 
 
「―…わっかんねーよ。」
 
イラついた声で小さく吐き捨てて。
ドアに八つ当たりしながら、命が部屋から消えた。
 
 
 
 
「―…カワイイこと。」
 
呟いて、くつくつと笑う。
 

 
 
「―…ま、俺もわかんねーけど。」
 
 
小さく、誰にともなく呟いて、煙を吐いた。
 
 
 
 

……過去の話ばっかでごめんなさい(小声
思いのほか創作の調子がよくってですね。久々にルーズリーフ書きですよ。
え、どんだけヒマしてたのかって?(笑)

これは紋がちょうど小学校上がったくらいの年で。だからー、6・7歳?
ってことは、命が11・12。だから少し幼く書いてます。
んで、問題なのが拓。あんま年離したくなかったから、前回の適当ーな設定では命より3つ上だったらしい。
当てはめてみると、14・15…。なんでコイツこんな偉そうなの?(爆)
適当設定の仇がこんなところでくるとは…Σ(笑)
…まぁアレです。俺様なんですってことで許してください。むしろ流してください(笑)

題名に特に意味はなく。なんとなくのイメージと響きでつけました♪
たぶん授業で聞いた、虐待の世代間連鎖が残ってるんだと思う(笑)

 

(2005/10/7)