ただ、面倒だったから。

周りの期待も、ありもしないような尾ヒレのついた噂話なんかも、全部。


だから、笑うコトを覚えた。

誰に対しても笑顔で、逆らわずに、「イイ子」でいるコト。

それが一番楽だったから。


敵を作らずに、表面的な味方をたくさん作る。
思ったよりも、とてもとても簡単なコトだった。

いつの間にか、何も意識しなくても自然と笑えるようになっていた。

とてもとても、生きやすい世の中が出来上がっていたんだ。







――――― ね、速水くんはさ、卒業したら何するの?」

それは、出会ってから約1ヶ月ほど経った頃。
当たり前のように、共に過ごすことが多くなった屋上での時間。

空には雲が多く、太陽はその眩しさを半減させていた。


「別に何も考えてねぇな。適当に大学行くんじゃねぇの。」
「いやいや、そんな他人事みたいに。」
「篠宮は、何か考えてんの?」
よくある質問に、うーん、と少しだけ考える。

見上げた曇り空は、どこか重たく感じた。


「まぁ、親とかは医者にしたいみたいだけどね。でもあんま興味持てないんだよね。」
「医者になんのって、興味あるなしの問題か?」
「さぁ〜?でも何の目標もない人よりはあった方がいいでしょ。」
その言葉に、速水くんは確かに、と呟く。



ここ1ヶ月くらいで、速水くんのことがいろいろとわかった。
あまり笑わないし、口数も多くない。
だけど別に恐い人ではなくて、ホントは優しい人で。
話しかけたら答えてくれるし、誰かを傷つけるようなコトは絶対にしないし。

僕みたいなどこか欠けた人間とは違う、本当に優しい人間。




――――― 篠宮、おまえ何考えてんの?」

――― えっ、や、何って……何だろ?」

突然の問いに、言葉に詰まる。

自然と口元に笑みが浮かんで、自分でも何か楽しいんだろうかと思った。



「――――おまえはさ、なんで楽しくも ねぇのに笑えんの?」

まるで、そう。
今日はいい天気ですネ、ってくらい、よくある世間話程度のコトのように速水くんが言った。

どうしてこの人は、こうも簡単に何もかもを見透かしてしまうのだろう。


「・・・なんだろう、楽だから?」
「楽って?」
「とりあえず笑ってれば都合のいいコトって、あるでしょ?」
その言葉に、速水くんはなるほど、と呟いた。

いつもと同じような、無表情なまま。
僕みたいな表面だけの人間からしたら、きっと一番付き合いにくい相手なんだろうな。

それなのにどうして、僕はこの人と一緒にいるんだろう。

どうしてこの人は、わかっていて僕と一緒にいてくれているんだろう。


「俺は、おまえみたいに愛想笑いもできないし、笑いたくもないのに笑えねぇ。」

まっすぐに、速水くんが見据えてくる。
キレイな、ちょっと灰色がかった瞳。


「正直、人と付き合うのは面倒だし一人が楽だと思ってる。」
「うん、そうだと思う。」

また、僕の顔は笑顔を作った。


「だけど、おまえといるのは楽だし。だからー・・・なんだ、何て言えばいいかわかんねぇけど。」
苛立ちを表すかのように、速水くんが頭を掻く。
細い髪の毛が、風になびいた。



―――俺は素で接してるつもりだし、できればおまえ もそうして欲しい、と思う。」


雲の切れ間から、太陽が射して。

僕らの足元に、濃い影を作った。



「・・・速水くんはさ、ホントまっすぐだよね。」
「不器用なだけだろ。」
照れ隠しなのか、速水くんがそっぽを向いた。
僕はなんだかそれが可笑しくて、嬉しくて、クスクスと笑った。


「そーゆう顔もできんじゃん。そっちの方が、俺はいい。」

少しだけ笑って、速水くんがタバコに火を点けた。



「僕、素はけっこう腹黒いけど、それでもいいの?」
「んなこと知ってるっつの。」
優しくて、まっすぐな笑顔が嬉しくて。

僕は久しぶりに、心から笑ったような気がした。



速水くんはまっすぐで、だけど不器用で。
僕は器用かもしれないけれど、どこか歪んでいて。

ちょうどよく、お互いの隙間を埋め合っているような、そんな感じ。

だからきっと、この人の傍はこんなにも居心地がいいんだろうなと思った。



「―――ね、玄って呼んでいい?」
「お好きにどーぞ。」
「じゃあ、僕のことは蓮って呼んでよ。」
気が向いたらな、って優しい顔して笑うから。
僕はまた嬉しくなって、笑ったんだ。


見上げた空は広い青空が広がっていて。
眩しい太陽が、僕らを照らしていた。




笑い方を忘れた僕に、教えてくれたのは君。

楽しさも、嬉しさも、君が初めて教えてくれた。


きっとこの先、何があっても。
僕は君の前でなら、ありのままの自分で笑っていられるような気がしたんだ。







 
最初を書いたままずっと進んでなかったモノ。勢いに 任せて書いてみた!
高校生がタバコなんて、そんな今さらなツッコミは受け付けません☆(笑)

篠と玄の高校時代。この2人はホントに仲良しさんなのでした。
玄は今でも気を抜くと篠のことを蓮と呼んでしまいます。
いつかそんな話も密かに書きたい・・・(希望を持つのは自由だと思いマス

篠は要領良くこなしてしまう器用さん。
玄はまぁ、あからさまに不器用さん(笑)

高校出てからは大学が別で、でも時々会ってた2人。
玄の方が先にCrimsonにいて、篠が入ってきたときに相当ビックリしたとゆう裏話があったり。
いつか書けたらいいな・・・(希望だけは持っててもいいと思いマス←うるさい

何はともあれひっさびさに書いたよ、クリムゾン。
またちびちび書いて行きたいデスv
 
 
(2009/8/16)