らぐ、
 
 
  別に、嫌いだったわけじゃない

  ただ
  アイツの影が見えるのが

  嫌だっただけ
 

  どこも、似ていないのに

  自分の記憶に
  弄ばれているような気がして

  嫌だっただけ
 
 
 
 
 
 
 
「−うわ、でっけー傷。」
 
その声に、見えていた背中が視界から消える。
相手が振り返ったのだと気付き、視線を上へと移す。
 
 
「…人の着替え見てんなよ。」
「やーだなぁ、凜ちゃんが勝手に着替え出したんでしょ。」
言って、クスクスと笑う。
 
 
「しゃーねぇだろ。向こう、アイツ寝てるし。」
「おー優しいねぇ。」
笑うと、うっせ、と返ってくる。
 
 
「つーか、どーしたん?」
もう服を着た凜の背中を指差す。
 
シャツの下に隠れた、縦に走る大きな傷跡。
 
 
 
「ガキん時、事故で。」
「ふーん、車とか?」
「あー…。」
何かを言おうとして、凜が口を開けたまま黙る。
 
 
「あ、別に言いたくないことならいいから、言わなくて。」
「言いたくないわけじゃねぇんだけどよ…。」
言いにくそうに、凜が口ごもる。
俺は、凜が何かを言うまで黙っていた。
 
 
「−…おまえ、謝んなよ。」
「え、あ、うん。」
意味がわからないまま、軽く頷く。
それを見て、凜が口を開いた。
 
 
 
「−心中だよ。一家無理心中ってやつ。もう、5年になるか。」
 
 
淡々と、何でもないことのように、紡がれる言葉。
それは、どこか遠い響きを持った言葉だった。
 
 
「…。」
 
1番に禁止された言葉が出てきて。
刹那、その言葉を飲み込んだ。
 
何も言葉が出てこなくて、思わず黙り込む。
 
 
 
「−…だから、言いたくなかったんだよ。」
 
面倒臭そうに吐き捨てて、くしゃ、と少し乱暴に頭を撫でられる。
 
 
「そーゆう顔すんな。ムカつくから。」
「…ムカつくとか、ひでーなぁ。」
軽く笑いながら、言う。
 
 
「え、未遂?」
「半分な。俺だけ生きてた。」
「…1人、だけ?」
「そ。奇跡だ、って言われたぜ。」
言って、凜がタバコの煙を吐く。
 
 
 
「…どんなだったか、聞いてもいいこと?」
 
少しうかがうように、尋ねる。
 
 
「簡単だぜ。崖から車で落ちただけ。」
「あー…ドラマによくありそうな。」
少しふざけるようにして、笑う。
 
 
 
「−…まだ、聞いてもいい…?」
 
躊躇いながら、呟く。
それに対して、凜はため息をついた。
 
 
 
「−こっち気にしてねぇんだから、んなこといちいち聞くな。」
 
面倒臭そうに言葉を吐いて、凛がタバコを灰皿に押しつける。
それに対して、クスクスと笑う。
 
 
 
 
「−タバコ、1本ちょーだい。」
「キャメルしかねーぞ。」
「いいよ、それで。」
答えながら、差し出された箱から1本抜き取る。
 
 
「嫌いなんじゃなかったのかよ。」
「キャメル自体は嫌いじゃないぜ。嫌いなヤツが吸ってたから嫌いなだけ。」
「今は?」
「今ー?今は、凛の吸ってるヤツだからいーや。」
意味わかんね、と言う凜に、クスクスと笑いかける。
 
 
 
「火ー。」
 
子どもみたいに言って、笑う。
心底呆れたような顔をしながらも、凜はちゃんと火を点けてくれた。
 
ホント、優しいよなぁ。
 
 
 
「−…凜はさ、親のこと、好きだった?」
「まぁ、普通。」
「じゃあ…1人生きてた時、どう思った?」
目線を外して、小さく呟く。
 
トン、とタバコの灰を落とした。
 
 
「…別に何とも。あぁ、生きてんだな、って。」
「うわ、凜って昔から温度低いのな。」
「ほっとけ。」
言って、凜がタバコに火を点ける。
 
ゆっくりと、煙を吐き出す動作を、黙って見ていた。
少しの間、沈黙が流れた。
 
 
 
「−…失くしたヤツと、最初から持ってないヤツ。どっちが辛いと思う?」
 
 唐突な呟きに、凜が顔を上げる。
 
 
「…何の話だよ。」
「んー…なんとなく。」
軽く笑いながら、煙を吐く。
凜は、それに対して何も言わなかった。
 
また、沈黙が流れる。
 
 
 
「−…俺、さ…親、いねーんだわ。」
 
下を向いたまま、小さく呟く。
凜は、黙ったままだった。
 
 
「…生まれてすぐ、捨てられたみてぇ。施設の園長が、拾ってくれた。」
「…それで、さっきの話か。」
「そ。だから、親の愛情っつーの?そーゆうのわかんねぇんだよな。」
言って、軽く笑う。
 
園長は優しかったけど。
きっと、そーゆうのとは違うんだと思う。
 
 
「…実はさ、兄貴、いんだ。まぁ、一緒に捨てられて、拾われたけど。」
「…初耳だな。」
「言ってねーもん。」
軽く笑いながら、言う。
 
 
「兄貴も性格悪ィの?」
「も、って何だよ。アイツは俺よりタチ悪ィ。」
「最悪だな。」
「基準、俺?」
言って、クスクスと笑う。
 
 
「んで、知っての通り、この世界に入ったのが10歳の時。ちなみに兄貴も一緒。」
「BUG、か。」
凜の言葉に、軽く頷く。
 
 
 
「−この世界で上がってくのは、簡単だった。」
 
ただ、殺せばいいだけだから
 
 
呟いて、タバコを灰皿に押し付ける。
 
 
 
「あっさり名前なんかももらえちゃったし。」
言って、軽く笑う。
 
それは、重い重い、罪の証。
 
 
 
「−…だからかな、俺どっか壊れてんの。」
「今さら何言ってんだか。」
「うわ、ひでー。」
言って、クスクスと笑う。
 
 
 
「−…慧、なんか悪かったな、色々。」
「ん?」
凜の呟きに、軽く笑いながら返す。
 
 
「…別に、おまえのこと嫌ってたわけじゃねーんだよ。」
「あぁ、それか。」
いーよ別に、と笑う。
 
 
「…おまえ、昔のダチに似てんだわ、どことなく。だから、嫌でよ。」
「あれ、結局嫌われてた?」
言って、クスクスと笑う。
 
「昔の、って、今は?友達じゃねぇの?」
「あぁ…昔の。」
ふーん、と呟いて、それ以上は聞かなかった。
 
 
 
「つーわけで、半分八つ当たりみてーなもんだった。悪かったな。」
 
言って、凜が立ち上がる。
 
 
「何?」
「コーヒー。」
それだけ言って、カップを持って姿を消した。
たぶんきっと、照れ隠し。
 
 
 
「−素直じゃねーなぁ。」
 
聞こえないように、小さくクスクスと笑う。
 
 
キャメルの箱に手を伸ばして、中から1本取り出す。
置いてあった凜のジッポで火を点けて、ゆっくりと息を吸う。
 
見慣れない箱を、手の中で回しながら眺める。
一瞬だけ、懐かしい面影が頭をよぎった。
 
 
ふっ、と煙を吐きながら手を離すと、角がテーブルに当たって軽い音を立てた。
 
 
 
 
「−…アイツ、元気かな…。」
 
 
小さく、消え入るような声で呟いた。
 
 


 

   
すっかり仲良しなお二人さん(笑)
ちょっとお互いに自分の過去を明かしつつ。慧には実はお兄さんいます!(笑)
まぁそのうち詳しく書きます。たぶん(こればっか
んで、書けたら次は凛の昔話きます。昔の友達についての。
まぁ、誰かは想像はつくかもですな(笑)
 
ちなみに、キャメル吸ってる慧の嫌いなやつとは、葵のことですヨ(笑)
 
 
(2005/2/21)