マリアの 



 
  いとも簡単に揺らいでしまう
  僕は、弱いから
 
 
 
 

ばたばたと珍しく少し駆け足して。
都合良く来てくれた四角い箱に急いで飛び乗る。
1回でボタンを押して、ゆっくりとエレベーターが下降する。
 
 
ゆっくりと呼吸をして。
だけど心はちっとも落ち着かなくて。
 
早く着かないのかと、現在位置を示すパネルを見上げた。
階段で行った方が早かったかもしれない。
だけど、疲れるのはイヤだしなぁー。
急いでいるのに、頭ではぼんやりと考えていた。
 
安っぽい音を上げた箱から飛び出して、軽く辺りを見渡す。
吐き気がするくらい真っ白な壁が、広がっていた。

 
 
 
「―凜。」
 
そこに背中を預けていた見知った姿に声をかけると、凜が閉じていた目を開けた。

 
 
 
「―紋、やっと来たか。」
「ごめん…それで、昂は?」
その言葉に、凜が後ろのドアを示す。
 
「命に別状はないってよ。」
「そう…よかった…。」
「今は薬が効いてる。…まぁ、眠っちゃいねぇだろうけど。」
「ん、わかった。」
言って、軽く一息つく。
 
 
 
「―…紋、おまえは行くな。」
 
唐突な言葉に、顔を上げる。
そこには、いつもと同じ表情の凜がいた。

 
 
「…行くなら、その顔なんとかしてからにしろ。」
言いながら、凜が歩き出す。
すれ違いざまに、ポン、と軽く頭を撫でられた。
 
聞こえないように、ふっ、と笑う。
 
 
「…そんな、ひどい顔してるのかな。」
 
 
呟いて、小さく笑う。

 
 
 
「……よし。」
何度か深呼吸して、躊躇いがちにドアを2回ノックした。
 
 
「…。」
 
 
中からの返事はなくて、それには構わずに、ゆっくりとドアを開ける。
真っ白な病室の中に、ぽつんとベッドが一つ置いてあった。
それに、ゆっくりと歩み寄る。
 
血の気のない白い顔と、いつもかけてる眼鏡がないのが少し不自然に思った。
 
 

 
「―…大丈夫?」
 
声をかけると、ゆっくりと目を開く。
 

 
 
「―…紋、さん…?」
 
いつもより心なしか弱い声に、小さく苦笑する。
 
 
「よかった、無事で。あ、起きなくていいよ、寝てな。」
起きようとした昂を止めて、布団をかけ直す。
 
「びっくりしちゃった。昂が病院運ばれたとか言うからさ。」
「すみません、少し失敗してしまいました。」
言って、昂が申し訳なさそうに笑う。
 
 
「それで、傷の方は平気なの?」
「問題はないです。ただ、戻るには少し時間がかかるかもしれないです。」
「いいよ、有休つけといてあげる。」
わざと茶化すように言って、クスクスと笑う。
 
 
「でも、ホント命に別状なくてよかったよ。」
「ご心配おかけしました。」
ホントだよ、って笑うと、昂も笑った。
 
 
 
 
「―君を殺すのは僕なんだから、勝手に死なないでよね。」
 
 
言って、軽く笑った。
今、自分はどんな顔で、笑っているんだろう。
 
 
 
「―はい、わかってます。」
 
優しく微笑みながら、返された言葉。
いつもと同じ笑顔と、まっすぐな瞳。

 
どうしてこうも、純粋でキレイなんだろう。
 
 
 
「…じゃあ、僕もう戻るね。ゆっくり休んでな。」
「はい、ありがとうございます。」
微笑む昂に手を振って、病室を後にした。
 
パタンとドアを閉めて、その場に背中を預ける。
一度、大きく息を吐いた。
 


 
 
「―…紋、大丈夫?」
 
不意に聞こえた声に顔を上げると、そこには見知った姿がいた。
 
 
「―零、おかえり。わかった?」
言って、軽く笑いかける。
 
 
「…ちゃーんと調べましたよ、リーダー。」
言いながら、数枚の紙を手渡される。
 
「そう、ありがと。」
「…あたし、やろうか?」
少し困ったように、零が笑う。
 
 
「ありがと。でもいいよ。後始末は僕がやらなくちゃ。」
「それ、公私混同って言わない?」
零の言葉に、まさか、と軽く笑う。
 
 
「れっきとしたお仕事、でしょ?」
 
言って、ぴらっと紙を見せる。
軽く呆れたように、零が笑った。
 
 
「綺羅さんも甘いなぁ。」
「違うよ、命さんも僕と同じだけ。」
言って、クスクスと笑う。
 
 
 
「―自分のモノに手を出されるのが、イヤなんだよ。」

 
言うと、ハイハイ、と零が笑ってため息をついた。

 
 
 
「―それじゃ、お仕事行って来ます。」
「ん、紋には必要ないだろうけど、気をつけてね。」
笑って言われた言葉に、軽く笑い返す。
 
 
 
 
「―…あ、零。」
 
振り返って名前を呼ぶと、零がん?と軽く笑う。
 
 
 
「―僕、ちゃんと笑えてる?」

 
 
唐突な問いに、零はすぐに答えなかった。
少しの沈黙のあと、ふっ、と笑って言った。
 

 
「大丈夫だよ、ちゃんとラブリーな笑顔ですから。」
その言葉に、ありがと、って笑って再び歩き出した。
今度は、振り返らなかった。
 

 
 
 
「―…恐いくらい、キレイな笑顔だよ。」
 
小さく呟いた言葉が、真っ白な静寂の中に、やけに響いた。
 
 
 
 

ずーっと前から書こうと思ってて今まで投げてたようなもの(笑)
昴が仕事中にケガするって話ね。紋がケガする話も書きたいんだけど…なかなか(汗)
Crimson結成当初の頃。メンバーは紋、昴、零、凛の4人です。
マリア様はこれから昴にケガさせたヤツのところに行きます。落とし前つけに(笑)

(2005/8/22)