知らないども
 
 
「−…ねぇ、黄。幸せだった頃って、ある?」
 
 
唐突な言葉に、顔を上げる。
何も読めない、まっすぐな瞳があった。
 
 
「…んなもん、生まれた時からねーよ。」
「だよね。」
言いながら、楽しそうに笑う。
 
 
「…おまえは?」
「僕ー?」
んー、と考える姿を横目に、タバコに火を点ける。
 
「…思いつかないやー。」
少ししてから笑いながら吐かれた言葉に、軽く笑う。
 
 
 
「−あ、コーヒーおかわりいる?」
「ん。」
軽く答えて、カップを渡す。
 
2つのカップを持って立ち上がる背中に声をかけた。
 

 
 
「−紋、少し牛乳入れて。」
「はいはーい。」
明るく答える声と、冷蔵庫の開いた音がした。
 
 
 
「はい、どうぞー。」
サンキュ、と言ってカップを受け取る。
 
 
「でも意外。黄ってブラックしか飲まないと思ってた。」
「たまに飽きるんだよ。」
言って、吸いかけのタバコを灰皿に押し潰す。
 
「おまえ、面白いよな。アイスとか甘いもん好きなくせに、コーヒーはブラックで飲むし。」
「えー、それとこれは別じゃないー?」
クスクスと笑う紋に、そんなもんかねぇ、と軽く笑う。

 
 
 
「−…でもさ、僕たちは幸せだったよね。」
「何、だよ突然。」
唐突な言葉に、首を傾げる。
どうしてコイツの発言はいつも突然なんだか。
 
 
 
「−…こうして、今も生きていられて…僕たちは幸せだ。」
 
 
嬉しそうでも、哀しそうでもない瞳で、紋が小さく笑う。
わかり切っていたことだけど、とても遠く、感じた。
 

 
 
「−…それは、本当に幸せなのか?」
 
その瞳をまっすぐに見て、静かに問う。
それに対して、紋がゆっくりと落としたように微笑んだ。
 
嬉しそうでも、哀しそうでもない、微笑み。
 
 
 
 
「−それは、僕にもわかんないよ。」
 
その言葉に、だよな、と呟く。
 
 
 
「だけど、こうして20年も生きてるのは、すごいことだよね。」
「あー、確かに。」
「それぞれいい人に拾われたねぇ。」
「…いい人かよ、あれ。」
呆れながら呟いた言葉に、紋があはは〜と笑う。
 
 
「あの人は、いい人だよ。僕を、ここまで生かしてくれた。」
 
憧れと羨望の混じった遠い目で、紋が微笑む。
 
 
 
「黄だって、ここまで育ててもらったんだし。ほら、いい人でしょ?」
クスクスと、紋が楽しそうに笑う。
 
 
「…あのクソジジィがねぇ…。つか、ヤクザの組長がいい人言われたらおしまいじゃねぇの?」
「あはは〜そうかもー。」
言って、紋がケラケラと笑う。
 
 
「黄は、お父さん嫌いなの?」
「お父さん言うな、気持ち悪ィ。」
「嫌われてるねぇー。」
クスクスと、、楽しそうに笑う。
 

「そーんなに嫌われてて、しかも息子は家出同然。かわいそうだねー。」
「…いない方がいいだろ、役立たずは。」
呟いて、タバコに火を点ける。
 
 
「戻ってきて欲しいと思うよー?今は、仕事もちゃーんとできるし。」
「…。」
 
 
「−あの時みたく、逃げ出すようなこともないだろうしね。」
 
 
笑いながら吐かれた言葉に、ゆっくりと煙を吐き出す。
 
 
 
 
「−…おまえって、なんでそーゆう言い方しかできねーかなぁ。」
「そーゆう育ちなんじゃない?」
言いながら、紋がクスクスと笑う。
 
 
 
「−おまえ、ホントあの人とそっくりだよ。」
「それって、褒めてる?けなしてる?」
「さぁ?」
軽く笑いながら言って、コーヒーを一口飲む。
 
 
 
「−…そう考えると、アイツはまだ幸せだったな。」
「慧?そうだね、確かに。」
言って、紋が小さく笑う。
 
 
 
「−あの子は、僕らの半分の時間を幸せに過ごしただろうからね。」
 
小さく、落とすように紋が呟く。
 
 
 
「−…だけど、その後は…僕らよりもずっと辛いかもしれない。特に、今が、ね。」
 
小さく呟いて、落としたように笑う。
 
とてもとても、優しい微笑みだった。
マリアのような、微笑み。
 

 
 
「…おまえは、どこまでわかってんだ…?」
静かなその問いに、紋がゆっくりと笑う。
 
 

 
 
「−全部、だよ。」
 
静かなその答えに、ふっ、と笑って、灰皿にタバコを押し付けた。

 
 
 
「−…慧は、朱といるから、幸せなんだろうね。」
 
小さく、独り言のように紋が呟く。

 
 
「−でも…朱といるからこそ、苦しいんだろうね。」
 
哀しそうな瞳で、紋が小さく笑う。
 
 
何の話なのかはわからなかったけれど、何も聞かなかった。
聞いても答えは返ってこないだろうし。
 
なんとなく、聞いてはいけないことのような気がした。

 
 
 
「−( むご )いよね。」
 

 
小さく呟いて、紋がタバコをくわえる。
それに火をつけてやると、笑ってアリガト、呟いた。
 
ゆっくりと煙が吐き出されて、独特の香が広がる。

 
 
 
「−…前から思ってたけど、おまえタバコ似合わねぇよな。」
ホント?と言って、紋がクスクスと笑う。
 
 
「いいよ、別に。僕味とかじゃなくて、香り楽しんでるだけだし。」
「なるほど、ね。親離れできねぇガキかよ。」
笑いながら言うと、紋がとても楽しそうに笑った。
 
 
 
 
同じような時に 違う場所で生まれて
同じような、扱いをされて
 
無数にあった道から選ばれたのは
同じような、暗い道
 
陽の当たらない、影の道 と 闇の道
 

 
交わることのない道が交わって
同じような道を歩んでいる
 
先に広がる道が同じなのか、分かれているのか
何があるのか
 
何も知らない
 
 
 

  
えー、とっても大きな秘密を明かしてしまった気分(は?
ホントはもっとあとに出す予定だったのですが、いい加減話を進めたくなりました(笑)
 
えーと、紋と黄は拾われた子です。さりげなく出したけど慧も(笑)3人とも、生まれてすぐに捨てられてます。
紋は綺羅さんに拾われて、20年間殺し屋の世界にいて。
黄はヤクザの組長に拾われて、Crimsonに入るまでヤクザやってました。
慧についてはまた後ほど。10年は平和な世界だったみたいです(笑)
そのうち個人個人もっと細かく話書きたいなぁと思う。いつも気合いだけはあるんだけど(笑)
 
題名はホントは「愛を知らない子どもたち」にしようと思ったんだけども。
愛ってなんかやだなと思って(笑)意味的にはそんな感じです、知らないモノ。愛とか真実とか。
黄は何も知らない自分にちょっと苛ついてたりとかしてたり。

 
(2004/12/17)