傷痕、涙、歪み
 
 
 
 
軽くノックしたドアの向こうからは、何の反応もなくて。
少し考えた後、持っていた鍵を出してドアを開けた。
 
 
 
 
「−…玄ー?」
 
 
言いながら、軽く辺りを見回す。
そこに人の姿はなく、ただ殺風景な部屋があった。
 
こんな朝っぱらから出掛けるのも珍しい。
…って言うか、まだ寝てんのかな?
 
考えながら、寝室のドアへと手をかけた。

 
 
何の抵抗もなく開いたドアの向こうで、目的の人を見つけて。
名前を呼ぼうとして口を開いたまま、それは言葉にならなかった。
 
普段隠れている顔の右半分の傷痕が見えていて。
そこから流れる赤に、一瞬戸惑った。
 

 
 
「−ちょ、おまえ何してんだよ!」
 
思わず叫んだ声に、玄が顔を上げる。
ぼんやりとした、虚ろな瞳だった。
 
 
 
「玄、大丈夫か?」
 
すぐに隣まで行って、血に濡れた頬に手を伸ばす。
 
 
 
「…尚、おまえ何しに来たんだよ。」
 
その手を遮るかのように手をかざされて。
面倒臭そうに、玄が呟く。
 
 
「何しに来たって?わざわざ届けもんしに来てやったんだろうが。」
それに少しムカつきながら、言葉を吐く。
行き場のない手を、下ろした。
 
 
「何怒ってんだ、おまえ。」
「怒るっつーの。」
言いながら、遮られるより先に頬に触れる。
 
指先が、赤く染まった。
 
 
 
「…痛くねーの?」
「さぁ。」
静かに呟いた言葉に、同じように静かな声が返ってきた。
それに対して、軽くため息をつく。
 
 
 
「とりあえず篠呼んでー…、」
「呼ぶなよ、馬鹿。」
「あー…そっか。」
言って、苦笑する。
 
それを見ていた玄が、不意に笑い出した。
くつくつと、可笑しそうに笑う。

 
 
「…笑ってんじゃねぇよ。」
 
言いながら、軽く小突く。

 
何がそんなに可笑しいのかわからないけど。
微かに、声を上げて笑ってる。
 
 
笑ってるのに、泣いてるみたいだった。
 
 
俺は、黙ってそれを見てた。
 
頬を流れる赤が、涙みたいに見えた。
 
 
 
きっと、玄はどっか壊れてる。
 
一番まともなんだけど、どこかが壊れてる。
壊れてるのはまぁ、俺も同じなんだけど。
 
 
あの日からずっと、壊れっぱなしだ。
 
 
これからも、きっと。
 
歪んで、壊れてく。
 
 
 
 
 

   
「傷痕、血、崩壊」の尚視点ー。こーゆう題名の付け方を一回やってみたかった(笑)
1つの話を2人の視点で書くのけっこう好き。
人によって色々と思うところが違うのとかね、そーゆうの好きなのです。
こーゆう話って、会話そのまま使えるから便利だよね(そっち
 
どうでもいいけど、玄はかなり低血圧。朝目覚めてしばらくぼーっとしてます。
でもって、尚は意外と早起きだったりとか。でも、寝坊するときは最高寝過ごすタイプ(笑)
 
玄は組織の中じゃ一番まともな部類。だと信じたい(微妙だ/笑
 
 
 
 
(2005/3/28)