ユダの心臓
「―…撒いた、かな?」
後ろを振り返りながら、小さく呟く。
人通りの多い道を、人にぶつからないように歩いて行く。
「―……めんどくさ…。」
周りに聞こえないように小さく吐き捨てて、狭い道を横に曲がる。
少し後ろで、1人の男が同じように曲がってきた。
そのまま歩いて行くと、少ししてから袋小路に出た。
後ろから、規則的な足音が聞こえてくる。
小さくため息をついて、後ろを振り返った。
「―何、アンタ?」
不機嫌そうに吐き捨てると、男が口元だけで笑った。
少し長めの茶髪に、黒いスーツを着こなしている20代くらいの男だった。
「―BUG。」
タバコの煙と一緒に吐かれた言葉に、はぁ、とため息をつく。
「ヒマだね、アンタらも。」
俺の言葉に、男が嘲るように笑う。
「おまえが戻ってくりゃいいんじゃねーの?」
「…つか、アンタ誰?」
「おまえは知らねーだろうな。関わりなかったし。」
俺の問いに、男が軽く笑いながら答える。
「あっそ。どうでもいいけど。」
「だな。俺もどうだっていいわ。」
「じゃあさっさと帰れば?」
俺の言葉に、男が笑う。
「おまえが戻ってくりゃ帰れるんだけどな。」
「…戻る気ねぇし。」
「ありゃ俺来てねーよ。」
言って、男が笑う。
それを見て、俺はまた一つため息をつく。
「―…何考えてんだ、アイツは。」
呟いて、タバコをくわえる。
火を点けて、ゆっくりと煙を吐き出す。
「―…帰って、アイツに伝えろ。いい加減にしろって。」
その言葉に、男がくつくつと笑う。
「見逃すのか、バグチャイルドの、アンタが。」
可笑しそうに、男が笑う。
「勘違いすんなよ。見逃してやるんだよ。」
タバコを地面に捨てて、笑う男を睨みつける。
「ハイハイ、見逃してくれてどうもありがとさん。」
笑いながら、男が言う。
「…初めから思ってたけどさ、アンタすごいムカつくわ。」
「そーかよ。」
言って、男がクスクスと笑う。
「―ムカつくなら殺せばいいんじゃねーの?」
笑ったまま、男が言う。
「…だから、そーゆうとこがムカつくんだって。」 ため息と一緒に呟くと、男が笑う。
「…アイツも、アンタ先に寄越してくれりゃよかったのに。」
軽く笑いながら、呟く。
「―そうすりゃ、アンタなんか躊躇いなく殺ってんのにな。」
その言葉に、男が心底楽しそうに笑う。
「―正直だねぇ、ガキは。」
クスクスと笑う男に苛立って、新しいタバコに火を点ける。
「―けど、俺は殺せねーよ。」
「はぁ?」
男の言葉が不可解で、眉をひそめる。
「―俺は、葵のお気に入りなもんで。」
男の言葉に、はっ、と笑いを漏らす。
「―ただの、駒だろ?」
笑いながら言うと、男が笑う。
「駒は駒でも、使い捨ての駒とは訳が違うんだよ。」
アイツとは違ってな
男の呟きに何も答えずに、ゆっくりと煙を吐き出す。
「―ま、おまえと一緒ってことだ。」
「…一緒にすんな、胸クソ悪ィ。」
その言葉に、男がくつくつと笑う。
「…さっさと帰れ、キレんぞ。」
「ハイハイ、そう睨まなくても帰りますよ。」
ヒラヒラと片手を振って、男が笑う。
「―と、その前に。」
唐突に、男が歩み寄って来て。
思わず、軽く身構える。
「んな身構えんなよ。殺すわけじゃねーし。」
クスクスと笑いながら、持っていたタバコを捨てて男が手を伸ばす。
ひんやりとした手が頬に触れた。
慣れない匂いが鼻をついて、少しだけ苛ついた。 「…ふーん…。」
面白そうに笑いながら、男が呟く。
色素の薄い瞳が、まっすぐに見下ろしていた。
「…なんだよ。」
不機嫌そうに吐き捨てて、男の顔に煙を吐き出す。
それに対して、男は軽く笑った。
「―いい色だって言ってたからよ。アイツ…裕紀が。」
その言葉に、一瞬だけ揺らいだ。
それを見て、男が可笑しそうに笑う。
「おまえ、どうしたよ。昔は何にも揺らがなかったくせに。」
「…。」
クスクスと、男が笑う。
「―自分で殺ったくせに、責任感じちゃってたりすんの?」
「―黙れよ。」
男の言葉に重ねるように、吐き捨てる。
「…おまえが、裕紀の名前出すな。」
思いっ切り睨みつけて、吐き捨てる。
それに対して、男が嘲笑する。
「―じゃ、そろそろ帰りますかね。」
男の言葉に、さっさと帰れ、と悪態をつく。
「―手土産。」
簡潔な言葉が呟かれた瞬間、頬に微かな痛みが走った。
眉をひそめて男を見ると、男の手には吸いかけのタバコ。
袖口から、微かに血のついたナイフの刃先が覗く。
「隙見せんなよ、命取りだぜ?」
クスクスと楽しそうに笑いながら、男がタバコをくわえる。
「―…このやろ…。」
口元に軽く笑みを浮かべながら、手の甲で頬の血を拭う。
「―ホントは、おまえの命もらってくのが一番なんだけどな。」
男が言って、トン、と心臓のところを指差す。
「…やってみろ、コラ。」
まっすぐに男を睨みつけながら言う。
その言葉に、男がクスクスと笑う。
「やんねーよ。中身はともかく、外見は気に入ってっから。」
「はぁ?」
男の言葉に、思いっ切り眉をひそめる。
「…んなの、アイツにでも言えよ。」
「もちろん、葵も気に入ってんぜ?」
クスクスと、男が笑う。
「―…アンタ、やっぱムカつく。」
言うと、男がくつくつと笑いながら煙を吐き出す。
「―…薫。」
「…は?」
唐突な言葉に、眉をひそめる。
「俺の名前。覚えといてよ。」
覚えねーよ、と悪態をつくと、男がクスクスと笑う。 「―じゃあな、慧。」
言って、男がヒラヒラと手を振る。
「―ケガ、早く治せよ。」
自分の頬を指差しながら、男が笑う。
そのまま後ろを向いて、スーツ姿が闇の中へと消えて行った。
「…自分でつけたんだろうが。」
手についた血を見下ろして、小さく独り言を呟く。
軽く傷に触れると、微かに痛んだけれどもう血はつかなかった。
「―…っあー…、マジムカつく。」
少し大きな独り言を呟く。
足下でくすぶっていた赤い灯を、かかとで思いっ切り踏み潰した。
少しずつ話を進めようと思ったんだけど…まぁ気にしない方向で(気にしろよ
なんか慧はひたすら苛ついてて、薫はひたすら笑ってるだけの話になっちゃった(笑)
とりあえず薫はむかつくヤツな路線を目指してました(笑)
ちょこっと険悪な話書きたかったんだけどな。不発。
裕紀はー…覚えててもらってますかね?(遠い目
アイリスに出てきた人ですよ。
葵については、また後日いろいろと。とりあえずまだ謎なままで(笑)
話終わるのかと少し途方に暮れてます(笑)
どうでもいいけど、題名なにげに気に入ってます(笑)
(2005/1/6) |