存在意義
たった1人でいいの。 ダレかにあたしを必要としてほしい。
あの日は雨が降っていた。
あたしは父親に刺された体を引きずってアテもなく歩いていた。
道行くヒトはみんなあたしになんて目もくれずに通り過ぎる。
ダレが生きていようが死んでいようが関係ないから。
薄れゆく意識の中で1つの声を聞いた。
あなただけが、あたしを見つけてくれた
「−…昂?」
目を覚ましたらソコにいるはずの部屋の住人がいなかった。
あたしはそれに大きな不安を憶えて、起きあがる。
その時、ドアが開いた。
「−あ、起きていましたか?」
ドアを開けて部屋に入ってきた人物を見て、あたしは酷く安心する。
「うん、今起きたの。昂はドコ行ってたの?」
「ちょっと紋さんの所に行ってました。」
「ふ〜ん何かあったの?」
軽く笑いながら、問う。
「ええ、凛さんが人を連れてきたんですよ。桜さんというそうです。」
「女の子?」
「いえ、男の方です。」
「なーんだ残念。」
「紋さんが頭を抱えていましたよ。」
そう言って昂は楽しそうに笑う。
「先週あたし来たばっかだもんねー。あーやも大変。」
「そうですね。コーヒー飲みますか?」
「うん。」
そう言って慣れた手付きでコーヒーを入れ始める。
あたしは治りかけたキズを見ながら、1週間前のコトを思い出していた。
目を覚まして最初に見たモノは、白い、知らない天井。
病院かと思ったけど、それにしてはクスリの臭いが何もしない。
「−痛っ」
起きあがろうとしたら腹部に鋭い痛みが走って、思わず顔をしかめる。
「−まだ起きあがってはいけませんよ?」
ビックリして声のした方を見る。
ソコにいたのはメガネをかけた、優しい笑顔をしたヒト。
「…あなた、ダレ…?」
なんとか上半身だけを起こして目の前の男のヒトに聞く。
「申し遅れました。私、
なんだかやけに丁寧で不思議なヒトだと思った。
「すばる、さん…?」
「ええ。けれどここの方はみなさん『コウ』と呼ぶのであなたもそうして下さい。」
「コウ、さん…。」
確かめるように、ゆっくりと呟く。
「呼び捨てで構いません。あなたは何というのですか?」
「…名前なんて捨ててきた…。」
少し考えてから、あたしは言った。
「…けれど、それでは私があなたをお呼びすることができません。」
「…。」
「お名前は、何とおっしゃるのですか…?」
ゆっくりと、微笑みながら聞かれる。
その笑顔はすごくすごく優かった。
「…
あえて名前だけを言った。
名字を言ったら、自分があそこの家にいたコトを証明してしまうような気がしたから。
それが、とても嫌だったから。
「凪子さんですね。」
「…凪でいい。」
「では凪さん。よろしくお願いします。」
ニッコリと微笑まれる。
「…敬語、やめて?…なんか、イヤだ…。」
なんだか他人行儀でイヤだった。
このヒトは赤の他人だから当たり前なのに。
「…申し訳ありませんが、私はこれが地なので…。」
「…そう、だよね…。」
ムリなコトだってわかってた。
だってあたしとこのヒトは何の関係もない。
「…ですから…あなたのことは『凪』とお呼びしますね。」
優しい笑顔と、優しい言葉で呟く。
「−アリガト。」
すごくどうでもいいコトだったけど、あたしはそんな小さなコトがすごく嬉しかった。
「−…凪、あなたに『坂下』の姓をあげましょう。」
「え…?」
「名字はあった方が何かと便利でしょう?」
そう言った昂の笑顔を見たら、なぜか涙が出てきた。
「…凪?どうしました?…あ、嫌でしたか?」
突然泣き出したあたしを見て、昂はちょっと焦ってるみたいだった。
「ううん、違うの。…嬉しいの…アリガト、昂。」
ホントに嬉しくて、涙が止まらなかった。
その時、初めて自分の存在を認めてもらえたような気がした。
「−どういたしまして。…凪、キズによくないからまだ寝ていなさい?」
涙を優しく拭って、優しく笑いながら昂が言った。
「うん、そうする。おやすみ、昂。」
昂に負けないくらいちゃんと笑ってあたしは言った。
「おやすみなさい、凪。」
優しい声に誘われて、あたしはすぐに眠りについた。
「−ハイ、どうぞ。」
「あ、アリガト。」
できたてのコーヒーを受け取って1口飲む。
「うん、やっぱ昂のいれたコーヒーっておいしいよね。」
「そうですか?」
「うん。あたしにもこんな味出せるかなぁ?」
「凪にならできますよ。」
あれから昂はよくあたしの名前を呼んでくれる。あたしはそれがすごく嬉しかった。
「そう?じゃあ今度教えて?」
「いいですよ。」
昂はそう言って笑う。
「アリガト。」
あたしもそれに答えるように笑う。
「−…凪、傷は治りましたか?」
「あ、うん。けっこうもう大丈夫。人間ってすごいね。」
軽く笑いながら言う。
「−生きてるということは、素晴らしいことですね。」
落とすように笑って、昂が呟く。
とても、愛しそうな、悲しそうな微笑み。
それが何を意味しているのかは、わからなかった。
「−…ねぇ、昂。あたしの初仕事っていつくらい?」
唐突な問いに、昂が顔を上げる。
「…そう、ですね…。適性見てからではないと何とも言えませんが…。」
言いながら、昂が少し考える。
「最低でも、半年後ですね。あとは零さんの判断に任せられます。」
「そっかー、遅くても半年後、か。」
「…凪、本当にいいのですか?嫌なら嫌と言っていいんですよ?」
少しだけ、困ったような笑みで昂が聞いてくる。
それに対して、あたしは軽く笑った。
「−いいの。ケジメ、ちゃんとつけたいし。」
そうですか、と言って昂が小さく微笑む。
その笑顔は、どこか悲しそうな気がした。
100%家族を恨んでいるわけじゃない。
少しくらいはやっぱり感謝してる。
憎んでるけど、キライにはなれない。
だからこそ、自分でケジメをつけなくちゃいけないんだと思った。
過去を振り切るため。昔のあたしを振り切るため。 「坂下 凪子」が、今のあたし。
「ココ」が、今のあたしの居場所。
あたしは今ココに存在してる。
確かなモノが、今ココにはある。
凪と昂の昔話ですー。昂のキャラがいまいち決まってないのに…(笑)
作中に出せなかったんですけど、当時凪は18で昂は21です。現在から約2年前なのです。 凪は父親に刺されたんですけど、その理由ってのは全く決めてません(オイ) ですから気にしないで下さい(笑) 殺し屋になって最初の仕事は、家族か親しい友人を殺すコト。 てか家庭崩壊してんの多すぎ…(汗)…まぁ細かいコトは気にしてはいけないヨ(笑) |