レ ン ズ 越 し の 瞳 
「―――よぉ、元気してるか?」

「…アンタ、また来たのかよ。」
思いっ切り不機嫌そうに吐き捨てられて、思わずクスクスと笑う。


「残念ながら今日はオフ。そっちは学校帰り?」
「…関係ねーだろ。」
「そんな警戒すんなよ。仲間だろ、慧。」
「俺はおまえの仲間じゃねぇよ。」
睨みつけられてクスクスと笑うと、小さく舌打ちが聞こえてきた。


「で?今日は何の用。」
「今日はオフだってさっき言ったろ。ホントに偶然だよ。」
全く信用していない瞳に笑いかける。


「ヒマだったから、散歩がてら趣味の時間を、ね。」
言いながら、傍らのカメラを持ち上げる。

「…撮んの?」
「撮って、自分で現像すんの。」
「へぇ、すげーじゃん。」
「見直した?」
笑いかけると、別に、と無愛想な返事が聞こえた。


「ヒマなら付き合えよ。俺この辺あんま知らないから。」
「…別にいーけど。」
予想外の答えに、少し驚いた。
どうせ断られると思っていたから。


「じゃあ、この辺でいー感じのトコ教えてよ。」
「どんなだよ。」
呆れた顔して、慧が言う。

「どこでもいいよ。慧の好きな場所、教えて?」

言うと、慧は少し考えてからこっち、と歩き出した。
その少し後ろを歩きながら、バレないように小さく笑った。




「―――へぇ、いい所じゃん。静かだし、落ち着く。よく来んの?」
「あんま人いないから、一人になりたいときとかたまに。」
言いながら、慧がタバコに火を点ける。
ファインダーを覗く後ろで、ゆっくりと煙を吐き出す音がした。

「いつも景色撮ってんの?」
「そうだね。人って撮りにくいから。」
「なんで?」
んー、と考えながら、カメラを慧の方に向ける。

「…写真ってさ、撮る人の想いが出るんだよ。」

ファインダー越しに見える、高校生。

「―好意も悪意も、全部。それってちょっと恐いと思わない?」
「…わかんね。」
慧の言葉に、そっか、と笑う。


「昔は撮ってたぜ、人。ほとんど死んだのだけど。」
「…悪趣味。」
嫌悪感たっぷりの声が、背後で吐き捨てられる。

「でもある時、それがすごく嫌になってさ。生きてるモノが撮りたくなった。」
「…。」
「ヒトでもモノでも、生命のあるモノ。」
言いながら、シャッターを押す。


「…アンタ、意外とまともなんだな。」
「アンタじゃないよ。薫。」
笑って言うと、慧も少しだけ笑った。
笑った顔の方が好きだと言おうとして、やめた。
きっと慧は嫌がるだろうから。


「…手、どしたの?」
「あぁ、コレ。」
左手の甲、火傷の痕。
痛みはもうないけれど、爛れた皮膚が痛々しく映る。


「ちょっと、な。」
「…葵?」
ふっ、と笑うと、慧が少しだけ悲しそうな顔をした。

「…アンタ、なんでアイツの傍にいんの?」
静かな問いに、んー、と少し考える。

「なんでだろうな。放っておけないからかな。」
「同情?」
「そーゆうのとも少し違うかな?」
わかんね、と呟く慧に、笑いかける。


「おまえは?なんで葵のこと見捨てないの?」
「………。」
「同じようなもんだと思うぜ。」
黙ったまま、慧が新しいタバコに火を点けた。


「――1枚、撮ってもいい?」
「俺?」
「そ、なんとなく撮りたくなったから。」
「…別にいいけど。」
アリガト、って笑って、カメラを向ける。


「自然にしてて。そーゆうの撮りたいから。」

タバコをくわえて遠くを見る慧を、ファインダー越しに覗く。
こんな、どこにでもいるような高校生が名の知れた殺し屋とは。
世の中なにかがおかしいような、そうでもないような。
自分の考えがおかしくて、ふっと笑みを零す。
何だよ、不思議そうな慧に、何でもないよ、と笑った。


「―サンキュ、いいの撮れた。」
「そりゃよかった。」
「久し振りだよ、人を被写体にして撮ったの。」
そう、あの日から、人を撮ることをやめた。
何が映ってしまうのか、恐くて恐くて仕方がなかったから。



「付き合ってくれたお礼に、コレやるよ。」
言って、1枚の写真を手渡す。
明らかに、慧の顔色が変わった。


「―何コレ、いつ撮ったの?」
「言っとくけど、ホントに偶然見かけて思わず撮っただけだから。」
慧は黙ったまま、写真を眺めていた。

「…俺も知らなかった。たぶん、葵は知ってんだろうけど。」
「……紋は、知ってんのかな。」
「さぁ?そちらはそちらで何考えてるのかわかりませんので。」
だよな、と呟いて、慧がため息をついた。

「…とりあえず、ありがと。ちょっと聞いてみるわ。」
「ん、まぁ気をつけて。」
「何もないといいんだけど…何もないわけねぇよな。」
「まぁ、そうだろうな。葵が関わってるのかどうかもわかんねーけど。」
もう1度、慧が大きなため息をついた。


「―――結局みんな、アイツの駒ってわけか。」

その言葉に、肯定も否定もしなかった。
正確に言えば、たぶんできなかった。


「…慧、大丈夫か?」
黙ったままの慧の顔を、少し覗き込む。
少しだけ不安そうな瞳と目が合った。

「…ん、ごめん。大丈夫。」
なんだか急に、慧がすごく小さく見えた。
そういえばまだ、たった17歳の子どもだということを、今さら思い出した。



「―――……薫、何かあったら、教えてもらっていい?」

唐突な言葉に、少し驚いた。
慧が俺に頼ることなんて、あるわけないと思っていたから。

「…俺、葵の下にいるんだぜ?本当のコト、言うと思う?」
「わかんねーけど、何も知らないよりはマシだ。」
言って、慧がまっすぐ見据えてくる。
そんなキレイな目で見られちゃったら、嫌とは言えないって、わかってやってんのかな?

「じゃあ、俺の連絡先、教えとくわ。」
言いながら、携帯を取り出す。
少しのやりとりで、メモリーに慧が入る。


「…神楽っていうんだ、苗字。」
「え、知らなかったの?」
少し驚いた顔をして、慧が聞き返す。

「葵から聞いてるもんだと思ってた。」
「いや、全く。特に不便もなかったし。」
そっか、と呟く慧が、少し遠く見えた。
俺の知らない葵のコトを考えてるんだろうなと思った。



「―じゃあ、俺帰るな。何かあったら連絡して?」
「ん、わかった。サンキュ。」
小さく笑う慧に小さく手を振って、その場をあとにした。




その場に一人残った慧は、1枚の写真を眺めていた。
ソコには、少しぼんやりと映る少年と少女。
人ごみの中で、2人でどこかへ歩いている写真だった。


「―――なんで、朱と栞が一緒にいるんだろ…。」

誰にともなく小さく呟いて、新しいタバコに火を点けた。

 


 

 
何やら昔に書いてたヤツが出てきたので、ちょっと手を加えて載せてみた。
薫の性格が未だに定まっていないらしい(爆)

ちょーっとずつ頑張って話を進めていってます。
でもね、話を進めるとね、どうしても慧ばっかりになっちゃうの。困ったちゃん★
朱の話も書いてあげないとなぁ(笑)

薫が人撮るのをやめたのは零が死んでからですヨ。
朱と栞を撮ったのは、被写体としてじゃないのでまた別の話ってコトで(笑)
 
 
(2007/11/13)