ブラックウト
 
 
  大切なモノは、いつだってこの手の中からいなくなってしまうから
 
  この手で、壊してしまうから
 
  だから 大切なモノなんて、いらない
 
 
 
 
 
 
「−凛。」
 
 
唐突に名前を呼ばれて振り向くと、そこにあったのは見知った姿。
 
 
 
「−どした、柳。」
 
言うと、柳がニィ、と笑う。
 
 
「あんさ、今日ヒマ?」
「まぁ、暇。」
「じゃあさ、これからうち来ねぇ?」
言いながら、柳が笑う。
 
「別にいいけど。何かあんのか?」
「んー、見せたいものっつーか何つーか、あるんだわ。」
言って、柳が楽しそうに笑う。
 
 
「んーじゃ、行こうぜ。」
 
柳が笑いながら言って、その後に続く。
 
 
 
 
 
 
 
「−…弟?」
 
俺の言葉に、柳がそ、と笑う。
 
 
「おまえ、いつ弟なんかできたんだよ。」
「こないだ。」
その言葉に、ふーん、と返す。
 
 
 
「−まぁ、ぶっちゃけ親父がヨソに作った子なんだけどな。」
 
明るく笑って、言葉が吐かれる。
 
 
「でも向こうの母親亡くなっちゃってさ。そんで、うちが引き取ったってわけ。」
「…なるほど、ね。年は?」
「タメ。」
簡潔な言葉に、少し考える。
 
 
 
「…親父さん、やるな。」
「なー、アホだよなー。」
言って、柳がケラケラと笑う。
 
 
「…つか、母親、大丈夫なのか?」
「んー…実はちょい微妙ーでさ。」
言って、柳が少し困ったような顔をする。
 
 
「母さん、桜とーあ、桜ってゆうのな。」
「女みてぇ。」
「カワイイっしょ。」
それでー、と柳が続ける。
 
 
「母さん、桜と話そうとしねぇの。存在まるっきりムシって感じ。」
「それはそれは…。」
「それとなー…。」
少し言いにくそうに、柳が口ごもる。
 
 
「…俺帰るとさ…桜、ケガしてんだよな。」
「…それ、って…。」
俺の言葉に、柳が小さく頷く。
 
「最初は転んだとか言ってたけどさ。…明らかに、タバコの痕とかあるし。」
「…親父さんは?」
その言葉に、柳が首を振る。
 
「アイツ、仕事とか言って帰ってこねーし。見て見ぬフリ、って感じ。」
言って、柳が力なく笑う。
 
 
「俺がもっとちゃんと稼げるならさ、桜連れて家出るんだけど。」
それもできねーし、と柳が笑う。
 
 
 
「…ずいぶんご執心だこと。」
「だってカワイイもんよ。」
言って、柳がクスクスと笑う。
 
 
 
「んで、何?そいつ見せたいわけ?」
「そうそう。親友の凛くんにぜひ紹介しとかないと、と思ってさ。」
クスクスと、楽しそうに笑いながら、柳がカバンをあさる。
鍵を取り出して、「高咲」と表札のかかった家のドアを開けた。
 
 
 
 
「−…ただいまー。」
 
柳が中に声をかけると、パタパタとスリッパの音が聞こえた。
 
 
 
「−お帰りなさい。あら、凛くんも一緒なのね。いらっしゃい。」
「お邪魔します。」
言って、軽く頭を下げる。
ゆっくりしていってね、と優しい笑顔が返ってきた。
 
 
 
「…普通、だな。」
階段を上がりながら、小さく呟く。
 
「だろ。めっちゃ普通なんだよ。」
「だから、タチ悪ィ、ってか。」
まぁな、と柳が少し困ったように笑った。
 
 
 
 
「−と、寝てるみてぇ。」
 
薄暗い部屋を覗き込んで、柳が呟く。
 
 
「こんな時間にか?」
「んー…なんか、けっこういつでも寝てる。」
なんだそれ、と笑うと、柳も軽く笑った。
 
 
 
結局その日は、何をするでもなく、柳と話していた。
 
 
じゃあな、と笑って手を振る柳に、軽く笑いかけて。
軽く手を上げて、そこから立ち去った。
 
 
 
一緒に笑い合ったのは、きっとそれが最後。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
次の日は土曜日で。
学校もなくて、朝からボーっとしていた。
 
何も、やる気が起きなかった。
 
 
不意に鳴った電子音に、携帯を手に取る。
少しの間、画面に映し出された文章を眺めていた。
 
 
 
『 おっけー、4時くらいならいるぜー。
  今日親父もいるんだって。最高気まずいー(笑) 』
 
 
 
ふ、と笑みを零しながら、それに返信する。
 
タバコに火を点けて、ゆっくりと煙を吐き出した。
 
 
 
 
 
 
 
−…ピンポーン
 
 
家の中に、チャイムの音が響いて、すぐにそのドアが開いた。
 
 
 
「−あら、凛くん。いらっしゃい。」
「…こんちわ。」
軽く笑って、挨拶をする。
どうぞ、といつも通りの笑顔が返ってきた。
 
 
ゆっくりと銃を取り出して。
振り返った背中に、躊躇いなく一発撃った。
 
ドサ、という音がして、目の前にあったモノが視界から消えた。
 
 
 
構わずに、すぐ横のドアに手をかける。
 
音もなく開いたそこは居間で。
ソファに座った男が、新聞を広げていた。
 
 
 
「−おや、凛くんじゃないか。久しぶりだね。」
 
笑いかけてくる男に、一発撃った。
真っ白なソファが赤く染まっていく。
 
銃を下ろして、黙ってそれを見下ろしていた。
 
 
 
 
不意にしたドアの開く音に、ゆっくりと振り返る。
 
 
 
「−お、凛来たかーって、なんでおまえこっちにいんだよ。」
 
言って、柳がクスクスと笑う。
 
 
「タイミングいいなー、今なら桜も起きてー…、」
 
笑った表情のまま、柳の言葉が途切れた。
視線が、俺の後ろのモノを見ていた。
 
 
 
「…え…親、父…?何、これ…どーゆう…。」
引きつった笑いで、柳が俺を見た。
それに、ゆっくりと銃を向ける。
 
 
 
「…り、ん……?」
 
 
恐怖の色を浮かべて、柳が目を見開く。
それに対して、何も言わなかった。
 
 
少しの沈黙の後、不意に、柳が軽く微笑んだ。
 
 
 
 
「−…なんで、笑うんだよ…。」
 
 
吐き捨てるように、呟く。
 
 
 
 
「…んな顔すんなよ、凛。」
 
言って、柳が笑う。
 
 
 
 
「…やらなきゃ、いけないことなんだろ?」
 
呟かれた言葉に、軽く俯く。
その笑顔を、見ていたくなかった。
 
 
 
 
「−…凛に殺されんなら、文句ねぇよ。悔いもない。」
 
 
呟かれた言葉に、顔を上げる。
柳は、優しく微笑んでいた。
 
 
 
「ま、正直恐ぇけどさ。…苦しませないでくれんだろ?」
言って、柳がからかうような笑みを浮かべた。
 
 
 
 
「…おまえ、バカだろ。」
「今さらだろ。」
笑って吐かれた言葉に、ふっ、と笑う。
 
 
 
 
「−…ごめん、な…。」
 
 
その呟きに、柳は笑ったまま首を振った。
 
 
 
 
「−……じゃあ、な。」
 
 
軽く笑いながら呟いて。
そのまま、引き金を引いた。
 
柳は、最期まで笑っていた。
 
 
ゆっくりと銃を下ろして、黙ったまま俯いた。
 
 
そのままこめかみに銃を突きつけて、消えてしまいたい衝動に駆られた。
 
だけど、それだけはしてはいけない。
そうしてしまえば、何のために柳が死んだのかわからない。
 
 
理由なんて、きっとないのだけれど
 
 
俯いたまま、軽く自嘲する。
 
 
 
どれくらいそうしていたかはわからないけれど。
不意にした音に、反射的に銃を向けた。
 
 
長い黒髪と、それとは対照的な程に白い肌が目についた。
 
それは、何の言葉も発しずに、足下のモノを見ていた。
人間、だったモノを。
 
 
 
「(…これ、が…)」
 
予想していなかったわけではないが、少し驚いた。
 
男とも女ともつかない中性的な顔立ちで。
同い年にしては、とても幼く見えた。
 
 
不意に交わった視線から、目を逸らしたくなってしまった。
 
感情のない真っ黒な瞳が、責めているかのように見えた。
それと同時に、心細そうで、泣いているかのようだった。
 
 
 
 
一緒に、来るか?
 
 
 
ほとんど無意識に、言葉を吐いていた。
 
ただなんとなく。
消えてしまいそうな気がしただけ。
 
 
 
きっと、それは単なる逃げ道。
そうしなければ、きっと耐えられなかっただけ。
 
優しさでも何でもない。
 
ただの、微かな罪ほろぼし。
 
 


 

 
  
「キズグスリ」の裏話的なモノ。実はこんなエピソードがございました。
最初の文とかが微妙にかぶってるのはわざとですから(笑)
↑の、守ってやる発言はこーゆうコトがあったからで。
 
柳とは、前に一回ちらりと名前だけ出しましたが。桜のお兄ちゃんです。異母兄弟ってヤツ。
でもって中学からの凛の親友です。あ、ちなみにこのとき高1。
付き合いが長いので、もう家族も知ってます。
さりげなく出しましたが、名字は「高咲」です(笑)タカサキ、ね。
 
ここで、高咲家の説明(は?
・玄関入ってすぐが階段ではない。
・リビングへの出入り口は、玄関脇と階段脇の2つある。
・ついでに(笑)凛の使った銃はサイレンサー付き。
 
これで何の矛盾もなく読めるはず!(笑)
ちなみに、題名に深い意味はございません(笑)
 
 
(2005/3/15)