ブルーヘブン
 
 
  準備なんてするヒマもなくて
  終わりなんて、簡単にやってくる
 
 
 
見上げ青い空には、白い雲が流れていて。
街は、いつもと変わらない様子で流れていた。
 
路地の片隅で誰かが死んでいくのも、いつもの日常。
 
 
 
 
――もう、行きな?」
 
横に座り込んで、ずっと泣きそうな顔をしている女の子に小さく笑う。
 
 
「このままだと、君も死んじゃうよ?」
笑いかけると、女の子が服をぎゅっと掴む。
 
 
 
―――ごめっ、なさ…。」
 
 
言って、泣き出す女の子の頭をポンポン、と叩く。
あくまで純粋な、キレイな涙だった。
 
 
 
「君が悪いんじゃないよ。大丈夫。」
笑いながら言って、女の子を立たせる。
 
 
 
「さ、走って。なるべく、ずっと遠くへ。」
 
言いながら、躊躇う女の子の背を押す。
 
 
 
「絶対に、戻ってきちゃいけない。…いいね?」
その言葉に、泣きながら一度だけ大きく頷く。
 
走り去る小さな背中に、小さく笑いかける。
 
 
その姿が完全に見えなくなってから、どうしようかな、とぼんやり考えた。
 
本当は、もっと広くて人がいない所へ行きたいけれど。
あとどれくらいの時間が残されているのかもわからない。
 
 
 
「・・・・・・ま、一人分だし、そんなに大きくないか。」
小さく呟いて、軽く自嘲する。
 
 
もう一度空を仰いだら、嘘くさいくらい空は青かった。


 
 
 
 
―――・・・・・・何してんの?」
 
 
唐突に聞こえた声に、視線を前に戻す。
そこに立っていたのは、見知らぬ一人の男。
 
 
 
「…それ、爆弾じゃねぇの?」
「…わかるんだ?」
「一応。良くできてること。」
言って、男が隣にしゃがみ込む。
 
静かに、首につけられているモノに触れた。
 
 
 
「…アンタ、随分と落ち着いてんだな。」
「そ?」
男の言葉に、軽く首を傾げる。
 
 
「これ、脈に合わせてカウントされてっけど、やたら遅いし。」
「…まぁ、仕事柄、ね。」
言って、軽く笑う。
 
そう、仕事柄。
あまり、心を乱すこともなくなった。
 
 
 
―――何。」
 
特に興味もなさそうな、ただの社交辞令。
 
 
 
―――殺し屋。」
 
軽く笑って、静かに呟いた。
 
 
 
「へぇ、それでこんなんつけられてんのかよ。」
「え、ちょっと待って、驚いたりしないの?」
「別に。そんな珍しいもんでもないんじゃねぇの。」
「え、うん、まぁ…そう、だけど…。」
淡々としてるなーと思ってたら、横で何かカチャカチャと広げられる。
 
 
「…あのー、何をしていらっしゃる…?」
「解体。見りゃわかんだろ。」
「え、できるの?」
「一応。保証はねぇけど。」
言いながら、男が広げた道具を見渡す。
 
かろうじてわかったのは、ドライバーとペンチくらい。
他は何に使うのか全く謎なモノばかり。
 
 
 
 
―――あ、ねぇ、カウントいくつ?」
「300ちょい。単純計算で5分か。」
「…できるの?」
「3分ありゃできる。」
「自信あるねー。」
言って、クスクスと笑う。
 
 
 
 
――ね、一つ約束して。」
「…何だよ。」
面倒臭そうに、男が見上げてくる。
 
 
 
「ダメだった時は、すぐ逃げてね。」
 
笑って言うと、男は表情を変えずに黙っていた。
 
 
「…アンタ、人殺しのくせに変なこと言うな。」
「まぁ、今仕事じゃないし。自分のせいで誰か死ぬなんて、後味悪いじゃん?」
言って、ケラケラと笑う。

 
 
――自分生きるために、殺してんじゃねぇのかよ。」

 
変わらずに、静かに吐かれた言葉。
それに対して、ふっ、と笑みを零す。
 
 
「君、けっこう鋭いね。」
面白い、と言って、クスクスと笑う。
 
 
 
「…つーか、時間ねぇから。」
「あ、そうだね、ごめん。」
上向いて、という声に軽く返事をして、上を見る。
 
青い空と太陽が、眩しかった。

 
 
 
―――…いい天気だねー。」
 
こんな日に死ぬのもいいかもね、と心の中で呟く。
罪深いこの身でも天国に行けそうだ、なんて、有り得ないことを思って薄く自嘲した。
 
 
 
「・・・・・・できそう?」
男はその問いには答えずに、だけど、次々と部品が外されていった。
 
 
「すごいねー。どこで覚えたの?」
「…アンタ、少しは黙ってらんねーのかよ。」
質問には答えていない声が、ため息と一緒に吐き出される。
 
 
「だって、ヒマなんだもん。」
「…死にてーのかよ。」
「うーん、それは嫌。」
じゃあ黙ってろ、と言われて、笑いながら黙る。
 


 
 
――ね、1コだけいい?」
「…何だよ。」
至極面倒臭そうに、手は休めずに、男が返す。
 
 
「なんで、見ず知らずの人間を助けるの?」
 
しかも、人殺しをさ
 
 
笑いながら、問う。
それに対して答えは返ってこなかった。
 
 
 
「…もし間に合わなくて自分もケガしたとかなったら、馬鹿みたいじゃん。」
「…そうだな。」
ため息と一緒に、男が呟く。
 
 
――生きてたら教えてやるよ。」
 
その言葉に、そ、と笑う。

 
 
 
―――あ、あと1つ。」
「…何。」
もう諦めたかのような顔をして、男が聞き返す。
 
 
「名前、教えてよ。」
「…それも、生きてたらな。」
男が面倒臭そうに言って、パチン、と何かコードの切れる音がする。
 
 
 
――・・・赤と青、どっちがいい。」
「−は?何、突然。」
いきなりの質問に、とても間抜けに返す。
 
 
「いいから、どっち。」
「え、えっとー…、青…?」
わかった、と答えて、細いペンチみたいなモノに持ち替える。
 
 
「え、待って待って。今のって、すごい重要?」
「別に。」
「えー、間違った方切ったら爆発、とかじゃないの?」
「そんなんじゃねぇよ。」
その言葉に、良かったー、と息をつく。
 
 
 
―――ただ、違う方切ると止まらなくなるだけ。」
 
 
「……え?」
サラリと言われた言葉に、その意味を少しの間考える。
 
 
 
「…それって、同じじゃない…?」
「違うだろ。」
「同じだよ。結局死んじゃうじゃん。」
「今死ぬか、後で死ぬか。違うだろ。」
「そう、だけどさ…。」
小さく呟いて、口ごもる。
 
 
 
「…落ち着けよ。さっきまで安定してたろ。」
 
「君を巻き込みたくないからだよ」
 
言おうとして、やめた。
何が変わるわけでもないから。
 
 
 
「…で、どっち。」
 
静かな問いに、軽く目を閉じる。
刹那考えたあと、目を開けた。
 
 
――うん…やっぱ、青でいいよ。」
言いながら、上を指差す。
 


 
 
―――今日は、空が綺麗だからね。」
 
ニッコリと笑って言うと、意味わかんねぇ、と返ってくる。
 
 
 
――青、な。」
 
声と同時に、パチン、という音がする。
 
 
 
「……え、もう、切った…?」
「切った。」
その言葉に、少し驚く。
 
 
「…もうちょっとこう、なんて言うか…ムード?作ろうよ。」
「アンタもけっこうのん気だな。」
「まぁねーって、結局どうなったの?」
「…。」
「ちょっとー。」
問いには答えずに、首元で何かがカチャカチャと音を立てる。
 
ガコ、という少し大きな音がして、少し締め付けられてた首がすっきりする。
 
 
 
「…止ま、ったの…?」
答えのように、目の前にさっきまで首についていたモノが置かれる。
 
 
「…すごーい…ホントにできるんだ…。」
「偶然。最後はアンタの運だし。」
「やー、それにしても命拾いしたわ。ありがとね。」
出した道具を片付ける男に、ニッコリと笑いかける。
 
 
「−ね、名前、教えて?あたし、零。皆月 ( みなつき ) 零。」
「…殺し屋がんな簡単に名乗っていいのかよ。」
「え、別に問題ないよー。何かあっても自己責任だし。」
笑って言うと、興味なさそうにふーんと呟く。
 
 
「ね、名前は?」
「…玄。速水 玄。」
「玄ね、オッケー。ね、うちの組織、入らない?」
唐突な言葉に、玄が眉をひそめる。
 
 
「何いきなりわけわかんねぇこと言ってんだよ。」
「だってホラ、いつまたこーゆうこと起こるかわかんないし。」
怪訝そうな顔に、笑いかける。
 
 
「…っていうかね、選択肢ないんだわ。」
軽く俯いて、静かに笑う。

手には黒く光る、拳銃。
銃口はまっすぐに無表情な男へと向けられている。

 
 
――仲間にするか、殺すか。」
 
まっすぐな瞳を、まっすぐに見て言う。
意外にも、その瞳は揺らがなかった。
 
 
―――で、あたしは君を殺したくないわけ。おーけー?」
明るく言いながら、笑いかける。
 
 
「…自分から正体ばらしたくせに何言ってんだか。」
「殺し屋なんて、狡いもんなんだよ。」
言って、クスクスと笑う。
 
 
 
 
―――悪いけど、人殺してまで生きたいとは思わねぇんだよ。」
 
 
まっすぐに、はっきりと吐かれた言葉。
自分の意志をしっかり持ってるんだな、とぼんやり思った。
 
 
 
「玄は、殺さなくていいの。殺さない、殺し屋になってくれればいい。」
 
まっすぐに瞳を見据えて、まっすぐに言葉を吐く。
自分でも、ずいぶんと勝手なことを言ってるなぁと思った。
 
 
 
「…随分と勝手だな。」
ため息と共に、玄が呟く。
思っていたことと同じことを言われて、思わず苦笑する。
 
 
 
―・・・・・・アンタ、ガキだな。」
 
唐突に吐かれた脈絡のない言葉に、面喰らう。
 
 
「…あのー、あたしたぶん君より年上だと思うんだけど…。」
「そりゃあな。でも、単なるガキだ。」

 
 
玩具 ( オモチャ )が手に入らなくて、喚いてる子ども ( ガキ )
 

 
タバコに火を点けながら、玄が静かに呟いた。
あたしは、その姿を何も言わずに見ていた。
 
 
 
白く、厚い雲に太陽が隠されて。
視界から、青空が消えていた。
 
 
 
 
 
―――零。」
 
 
唐突な呼びかけに、その声の主を見る。
 
 
 
――なんで、俺を殺したくねぇの。」
 
言って、玄が煙を吐き出す。
 
 
 
「・・・・・・わかんない。」
少し考えた後、軽く笑いながら言った。
 
どうしてかはわからない。
ただ、そう思ったから。
 
 
 
――なんだよ、それ。」
 
あたしの言葉に、玄が返す。
軽く、喉でくつくつと笑いながら。
 
 
 
――しょうがねぇから、入ってやるよ。」
 
笑いながら、言葉が向けられる。
それに対して、あたしはなぜかとても嬉しくなって。
 
同じように、笑った。
 
 
 
視界の端に映った空は、綺麗な青色をしていた。
 
天国まで連れて行ってくれそうなくらい。
キレイなキレイな、青。



  
久々に長いものを…。ごめんなさい、途中で分けれなかったんです(爆
これがずーっと前から書いてたのに気に入らなくてしょうがなかったもの。
どんくらい前かって、これが誰かの本名初公開だったはずなくらい古いの(笑)
何はともあれ、書き直し頑張りました自分。なんとかなったような気がする。
 
玄と零です。彼らの出会いはこんな感じ。
やっとこさ玄が組織で何やってるか公開できたね(笑)
爆弾処理なんです、専門は。
んでも、そうそうあるコトじゃないので、普段は火薬関係の仕事してます。弾薬とかね。
まぁ、専門知識ないので、あまり深くはつっこまないでください(笑
 
最初書いた方では、このあと組織のみんなとご対面があったのですが、長くなったのでシカト(笑)
次の話でちゃんと書きます、ハイ。
 
 
 
(2005/2/3)