アノレキシア
―…コンコン
遠慮がちにドアを叩くと、少ししてからそのドアがゆっくりと開いた。
「―…あ、れ…昂さん?」
そこから顔を出したのは、その部屋の主ではなく、昂さんの姿。
「こんにちは、朱さん。」
「あ、こんにちわ。えっと、紋、いないんですか?」
「いえ、居ますよ。ただ…今ちょっと寝てしまっていて…。」
急用なら起こしますが、と言われて、慌てて首を振る。
「全然急ぎじゃないんで、あとでまた来ます。」
そうですか、と微笑む昂さんに笑いかけて、ドアを閉めた。
少しの間、閉じられたドアを眺めて、ゆっくりと部屋へ戻る。
「―…誰だった?」
ソファーから、ゆっくりと身体を起こしながら紋さんが問う。
「朱さんでしたよ。あとでまた来るそうです。」
「そう…悪いコトしたね。」
言って、紋さんがすまなそうに笑う。
それに対して、軽く微笑む。
「そんな青白い顔で出て行かれても困りますよ。」
「大げさだなぁ、昂は。」
軽く笑って、紋さんが呟く。
「…紋さん、自分が何日食事を取っていないのか、わかってますか?」
「んー…3日くらい?」
「…今日でもう5日目ですよ。」
「え、ウソ。そんなになった?」
言って、紋さんがクスクスと笑う。
「―紋さん。」
少し強い口調で言うと、紋さんが黙り込む。
「…何でもいいので、せめて一口でも食べてもらえませんか?」
「…食べたくないんだよ。」
言って、紋さんが枕に顔をうずめる。
「…では、せめて普通に睡眠をとってください。」
「…眠れないのー。」
小さな小さな声で、拗ねた子どものように呟く。
「…身体、壊しますよ?」
「…平気でしょ、コレあるし。」
言って、軽く腕を持ち上げる。
細い腕に繋がれた、いくつかの細いチューブ。
強制的に補充される、生きるために必要な最低限のもの。
「…睡眠は、とらなければ死にますよ…?」
「いーよ、別に。」
「紋さん。」
言うと、紋さんが背を向ける。
「…死にたいんですか…?」
「……。」
黙ったまま、紋さんがゆっくり体を起こす。
「―…死にたい、って言ったら、殺してくれるの?」
まっすぐに見据えられて、思わず背筋が凍るような感覚を覚えた。
同じようにまっすぐに見据えて、口を開く。
「―できません。」
はっきりとそう言うと、紋さんがふっ、と笑った。
「…言うと思った。じゃあいいよ、もうほっといて。」
面倒臭そうに、紋さんが吐き捨てる。
「…それは、命令ですか?」
「そ、命令。」
言いながら、紋さんがソファーに沈む。
「―…できません。」
「…あのねぇ…。」
呆れたように、紋さんが呟く。
「普段なら放っておきます。けれど、今のあなたは、放っておくわけにはいきません。」
「あぁー…もう…。」
紋さんが苛立ったように頭を押さえる。
「―ほっといてよ!!もう、いいから消えて!」
小さく叫ぶように言って、紋さんが軽く肩で息をする。
俯く紋さんを見ながら、黙ったまま立ち上がった。
「―……。」
不思議そうに見上げてきた瞳と、目が合う。
それに、何も言わずに笑いかけた。
首筋に当てたナイフの刃が、やけに冷たく感じて。
紋さんは、ただ黙ってそれを見ていた。
「―…っ」
一瞬走った鋭い痛みと、目に入ってきた赤い色。
「―…止めるくらいなら、初めから言わないでくださいよ…。」
ナイフから手を離して呟く。
「―…少しくらい、躊躇ってよ…。」
バツが悪そうな顔をして、紋さんがナイフを置く。
「…首、平気?」
言いながら、紋さんが手を伸ばしてくる。
首筋に引かれた、細く赤い線。
「私より、紋さんの方が。」
言って、傷ついた手をとる。
ナイフでつけられた手のひらの傷と、無理やりに引き抜かれた針の跡。
どちらも血が滲んで、白い肌を伝う。
「…あまり、無茶をしないでください。」
言いながら、傷口に真新しいタオルを当てる。
真っ白なそれはすぐに赤く染まり、鮮やかな模様を作る。
「…だってさ、止めなかったら昂ホントに死ぬんだもん。」
「そうですね。」
笑って言うと、笑い事じゃないよ、と怒られる。
「―昂、ちゃんと自分の手当てもしてよ。」
「ええ、終わったらやりますよ。」
「…だと思った。」
紋さんが呟いて、ため息混じりに笑う。
「―痛かったら言ってね。」
言いながら、紋さんが赤い模様のついたタオルを首に当てる。
「ありがとうございます。」
「…お礼言われちゃっても困るんだけどさ…。」
そう言って、紋さんが困ったように笑う。
「…何やってんだろうね、僕たち。バカみたいじゃん。」
「本当に。」
言って、クスクスと笑う。
「点滴、どうします?またつけ直しますか?」
手のひらに巻いた包帯を止めながら聞く。
腕にはまだ血が滲んでいて、落ちていたタオルを当てる。
「…いいや、大丈夫。」
「そうですか?」
「うん、平気。」
言って、紋さんがゆっくりと笑う。
「それよりさ、何か作って。バカらしくてお腹空いちゃった。」
笑って言われた言葉に、ふっ、と笑う。
「いいですよ。何が食べたいですか?」
「んー、なんでもいいや。昂のご飯何でもおいしいし。」
もう、すっかりいつも通りの顔で紋さんが笑う。
「わかりました。では、その間少しでも寝ていてください。」
「ん、りょ〜うかーい…。」
すでに眠そうな声で、目を擦る。
「おやすみなさい、紋さん。」
言うと、すぐに規則的な呼吸の音が聞こえてくる。
それを見て、1人安堵の息を吐く。
今回も、とりあえずは大丈夫だった、と。
同じ症状が現れる度、だんだんとそれが酷くなってきている。
何が原因なのかもわからず、見ていることしかできない自分が歯痒い。
何かをしたくて、だけど負担にはなりたくない。
紋さんが何を望んでいるのか。それが、とても難しい。
「―…隣にいることは、許されますか…?」
答えのない問いを呟いて、小さく笑う。
首筋の傷が、少しだけ痛んだ。
授業中に書いてたモノ(何してんの
紋はときどきこんな症状起こします。持病っていうかなんというか。
モノ食べれなくて。寝ることもできなくて。寝てもすぐ覚めちゃう感じ。
自分で考えた設定ながら、寝てないとヒマな時間がありすぎだろとか思った(笑)
ちなみに点滴は篠が作ってます。なので篠だけは知ってる感じ。
出てきたのがなんで朱かって、まぁほら、主人公だし(つまり意味はない)
紋に言われたら、死ぬことすら躊躇いません、昂は。
だからって人の部屋で死のうとすんなって話(爆)っていうか手当てして(笑)
キレた紋ってどんなんだか謎に思いつつ書いてた(笑)半ギレってコトで(微妙)
題名の「アノレキシア」は拒食症って意味。
ルーズリーフに書いてて、自分の字が「アルキシア」に見えてしょうがなかった(笑)
ちなみに、1日何も食べないで水も飲まないでいると、病院で点滴されます、ホントに(笑)
水飲んでたらまだセーフらしいよ(笑)
(2004/10/15) |