記 憶
痛みの記憶は、今も根強く
ただひたすらに
自分を責め立てる
「−…っあー…疲れた…。」
座ったまま軽く伸びをして、トントン、と首の後ろを叩く。
「あー…もうこんな時間か…。どうすっかなぁ…。」
時計を見ながら、呟く。
少し考えたあと、直したばかりのナイフをポケットにしまって立ち上がった。
「おー、満月だ。」
外に出ると、夜の闇を、明るい月が照らしていた。
「−…尚。」
馬鹿みたいに上を向いてたら、唐突に声をかけられて視線を前に向ける。
そこにいたのは、見知った姿。
「おー、篠じゃん。何、今帰り?」
「そー、残業疲れちゃった。尚どっか行くの?」
「んー、飲みに行くとこ。一緒行くか?」
「そっか…今日は遠慮しとくよ。」
言って、篠が軽く笑う。
「一緒だと尚、遊べないしね。」
「人を遊び人みたく言うなよ。」
「だってホントのコトでしょ?」
クスクスと、篠が笑う。
そうしていると、ホントにアイツ−紋に似ているな、と思う。
「―――尚?」
「―あぁ、うん、何?」
唐突にかけられた声に、答える。
「ボーっとしてたよ。疲れてんじゃない?」
「あぁ、平気。飲めば治る。」
「・・・アル中ー。」
笑いながら、ため息と一緒に篠が呟く。
「―あ、そだ。これさ、慧に渡しといてくんね?」
「うん、いいよ、慧ね。」
さっきしまったナイフを取り出して、篠に手渡す。
「んじゃ、行って来るなー。」
「行ってらっしゃい。気をつけてね。」
ひらひらと手を振る篠に、笑って同じように手を振る。
丸い、大きな月が、夜空に佇んでいた。
「―――・・・そっか・・・今日、か・・・。」
尚の姿が見えなくなってから、小さく小さく呟いた。
手の中で、月明かりに照らされたナイフが、銀色に光っていた。
慣れた道を歩いて行って、少し大きな扉に手をかける。
カラン、と聞き慣れた音が聞こえて、ドアが開く。
眠くなりそうな、静かな音楽が耳に届いた。
「――お、尚じゃん。久しぶりー。」
「よーっす、本庄。」
笑いながら言って、軽く手を合わせる。
「相変わらずヒマしてんなー。人ガラガラじゃん。」
「うっせー。常連がいればいいんだって。今日は?」
「んー、いつも通り。」
「はいよ。」
カラカラと、慣れた手つきでグラスにカクテルが注がれていく。
「いっつも思うけどさ、そのパフォーマンス失敗したらこえーよな。」
「おっそろしいこと言うな。」
笑って言いながら、キレイな色の液体が入ったグラスを2つ差し出す。
それを1つ自分の前に、もう1つを、隣に置く。
「・・・あれから、どんぐらい経った?」
「んー…1年、ちょいかな?」
「そっか…もう、そんななったか…。」
しみじみと、本庄が呟く。
「ホント、なんであんないい子がおまえなんかにひっかかったんだか。」
「ひでーなぁー。」
言って、クスクスと笑う。
「―――なぁ、前から聞いてみたかったんだけどよ。」
「んー?」
「おまえは、吹っ切れてんの?引きずってんの?」
本庄の問いに、軽く首を傾げる。
「――さぁ?わかんねーや。」
薄く笑うと、そーかよ、と返ってくる。
「半々、って感じか?」
「どーゆう意味で?」
「引きずってたら今みたく遊んでないだろうし、吹っ切れてたら今みたく飲みに来ないだろ。」
「さっすが、本庄くん。よくわかってんじゃん。」
カラカラと笑って、空いたグラスを差し出す。
「あんま飲み過ぎんなよ?明日もガッコあんだろ。」
「明日休講ー。あっても行かねー。」
「おいおい…単位取れんのかよ、大学生。」
「余裕ー。」
笑いながら言って、グラスを受け取る。
「ま、おまえザルだから来てくれるとこっちは助かるけどよ。」
「お客様は神様だもんな。」
「うわ、こんな神様願い下げ。」
「マジかよ。」
言って、クスクスと笑う。
「なんで、おまえ月イチでしか来ねぇの?もっと来ればいいのによ。」
「んー、ココには月イチって決めてっから。」
薄く笑って、グラスを口に運ぶ。
「・・・やっぱ多少引きずってんじゃん。」
「半々、だろ?」
軽く笑って言うと、だな、と本庄が笑ってため息をつく。
「そういや、墓参りとか行ってんの?アヤちゃんの。」
「行ってねーよ。どのツラ下げて行けって。」
言って、クスクスと笑う。
「別に、アヤちゃんが死んだのはおまえのせいじゃないだろ。」
「違うよ。アイツが死んだのは、俺のせい。」
「――尚紀。」
言ってから、本庄が一つため息を零す。
「あんま、自分を責めんなよ。誰のせいとか、そんなんじゃねーだろ。」
「・・・やっさしーなぁ、本庄は。」
言って、本庄に笑いかける。
そしたら本庄は、アホか、って言って、空のグラスを持って、後ろを向く。
それを見て、俺はクスクスと笑う。
ホント、本庄は優しい。
昔っから、そう。
だけど、ちょっと違うんだよ。
本庄は知らないだけ。 アヤが死んだのは、俺のせい。
俺が、殺したんだ。
「―――はいよ、本日の特製カクテル。」
「お、サンキュー。相変わらずキレイに作るコト。」
「そら、そーゆう仕事だからな。」
当たり前だろ、と本庄が笑う。
「しかしすごいよな。高校んとき言ってたコト、ホントにやっちゃうもんなー。」
「有言実行なんだよ。誰かさんと違って。」
「失礼な。」
クスクスと笑いながら言う。
本庄は高校のときのダチで、よく一緒につるんでた。
そのときに語ってた夢。
それを、ちゃんと叶えている。
高校を出てからここで働いていて、俺はそのときから常連で。
アヤとも、よく一緒に来ていた。
「―――ねぇ、お兄さん一人?」
唐突にかけられた声に、首だけで振り返る。
赤い口紅の色が、目についた。
「・・・2人に見える?」
ふざけて笑うと、女がクスクスと笑う。
「そうじゃなくて。グラス、2つあるから。」
「あぁ。でも、誰も来ねーよ。」
「そうなんだ。じゃあ、一緒に飲まない?」
言って、女が笑う。
赤い赤い、唇で。
「―――いいぜ。」
それに対して、笑って答えて席を立つ。
「―――他の店、行こうぜ。いいトコ知ってっから。」
女の耳元に口を寄せて、囁く。
くすぐったそうに笑って、女が頷いた。
「―――尚。」
「んー?」
女の隣に立って、本庄を振り返る。
「―また、来月な。」
「ん、またな。」
ニッ、って笑って、ひらひらと手を振る。
手のつけられていないグラスが片づけられるのを横目で見ながら、女を外へと促す。
「―――あなた、尚っていうの?」
「ん?あぁ、滝野 尚紀。尚でいーよ。」
「そんな簡単に教えちゃっていいの?」
言って、女がクスクスと笑う。
「まぁ、別に殺し屋とかじゃねぇし?」
笑いながら言うと、女が楽しそうに笑う。
「あたし、アヤよ。若槻 綾。」
「・・・・・・へぇ、いい名前じゃん。」
「そう?ありがと。」
言って、女は笑う。
赤い赤い、血のように赤い唇で。
それを軽く引き寄せて、軽くそれに口づける。
「―血の味はしねーんだな。」
離れてから笑って言うと、女が可笑しそうに笑う。
「面白いのね、尚って。」
「そりゃどーも。」
クスクスと笑う女に、同じように笑いかける。
明るい満月が、静かに辺りを照らしていた。
痛みの記憶が、今もココにあるのは
それを
忘れてはいないから
忘れられないから
忘れたくないから
忘れたいから
1200hit 紅杞さんのリクで尚の小説です。ご要望にお応えして、さりげなーく篠も出してみました♪
今回は、尚の過去(?)を少しだけ公開(笑)あ、本名も(どうでもいいから
尚は実は遊び人だったりします。来る者拒まず、去る者追わず(笑)
アヤっていうのは元カノさんです。それの話もそのうち本編で…(遠い目
忘れたいような、忘れたくないようなことって、あると思うんですよ。
尚はそれに半分引きずられてるような感じです。というか、みんなそうなのですが(笑) こんなんでよければもらってやってください〜♪
誤字脱字あったらごめんなさい、教えてやってください(汗々) |